第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
鉄珍の言葉にあげはが顔を上げた
「そう、ですね。変わっていると、
信じたいです」
「今ならわかるやろ?アイツの言葉に
ホンマの事なんか、何にもなかったんやて事も」
そうだと思う部分と
そうでないと思う部分が交錯する
「私には…まだ、
全てが偽りだったと思えなくて…」
「たった1の為に、残りの99を許すんか?
アンタが言ってるんは、そう言う事やで?」
確かに鉄珍様の言葉は正しいのはわかる
頭で理解は出来ているのだ
「まだ、惚れとるんか?」
お互いの視線がぶつかる
逸らすことも許されないとわかる
そしてその口調は静かだ
嘘をつくことは許されないと言っていた
「惚れて…た、だけです」
「せやろな…」
あげはの言葉に満足そうに鉄珍が頷いた
「あげは。…あんまり自分ばっか、
責めたらあかんで?アンタはよー頑張っとる、
だからな。気にせんでもええねん」
「…鉄…珍…様?」
気にしなくていいと言われ
あげはが顔を上げた
「自分が、幸せに…なっても、ええやんか?」
そうあげはに言う 鉄珍の口調は優しい
もっと近くに来いと言うかのように
鉄珍があげはに手招きをする
「他の人の幸せやのーて、罪滅ぼしでものーて、
自分の幸せのために、刀振り回してもええやんか。
だって、守りたいんやろ?ちゃうんか?」
ポンっと小さな手があげはの頭に当てられると
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる
自分じゃない 他の
誰かの幸せの為にじゃなくて
それは 自分の幸せの為に……
今まで ずっと感じて来た
罪の意識を滅ぼす為でもなくて
私が 守りたい物を
大切な物を 守る為に 戦ってもいいと
そして それを 許されて……いると
そう 私に言ってくれていて
「ーーー…たく、ないです、私は…あの人を
死なせたく…ないです」
ギュッと握った
あげはの拳の上に涙がポタポタと落ちた
「だったら、もうええやんか?許したりーな
そない泣いたら、せっかくの別嬪さんが
台無しやで?女は…笑顔が一番やしな!
まぁ、あんじょうしぃや?」