第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
ゾクリ と背中に冷たい
プレッシャーの様な物を感じた
「そう鉄珍殿が仰るのであれば、そうしよう!」
杏寿郎の方から鉄珍が
あげはの方へと向き直る
「ワシは、あげはに話したいことあるさかいな、
そっちの兄ちゃん、案内したってや」
奥から別のひょっとこの面の男が現れて
杏寿郎を伴い部屋から出て行った
「あんたらも、下がりや」
両サイドにいた刀鍛冶にも下がるよう伝えると
広間には鉄珍とあげはだけになる
チッ チッ チッー
柱に付けられた時計の秒針の音が
妙に大きく耳についた
わざわざ お付きの者を下がらせてまで
したい話とは何なのだろうか…
そして徐に 鉄珍が口を開いた
「…今回の、鬼…は強かったらしいやんか?」
知っているのか この人は
私と杏寿郎さんが戦った鬼が“上弦”だと
上弦の鬼は強い
柱に空席ができるのは
よっぽどの特例がない限り
この上弦と呼ばれる鬼との戦いによる戦死だ
「私が…、今まで…鬼狩りとして戦って来た
鬼の中で…、一番…、強い鬼であったのは
確かです…が」
鉄珍様は この里の長
刀鍛冶としての経歴も長い熟練の職人だ
担当して来た隊士には
当然 “柱”の隊士も多く居た
柱であった時の私の刀もそうだが
今も柱の しのぶちゃんや蜜璃ちゃんの刀は
鉄珍様の打った物だ
2人の日輪刀の様な
特殊な形状の物もそうだが
私の日輪刀の様な
複数の呼吸に対応できるのも
鉄珍様だから出来る 匠の技なのだ
「ワシかて、なまじ長い事、刀打って
来てへんねん。よお、2人共…、生きて帰って
来たもんや。アンタらの刀見たら、どんな戦い
して来たんか。刀鍛冶なんかしてんねん、
それくらい、言われんでもよーわかる」
そう言うと お面の下の目を
鉄珍が細める
あの日…里に届けられた
二振りの日輪刀
一振りは根元近くより ポッキリと折れており
もう一振りは 酷い刃こぼれだった
刀の形状こそしていたが
もう 刀としては使い物にならへん
死んだ刀 やった
「アンタの刀、
…もう1手合いでもしとったら、折れとった」
ガバッと鉄珍が頭を
畳に擦るように深く頭を下げた
その様子を見たあげはが慌ててそれを制止する
「ちょ、やめて下さい、鉄珍様!
お顔を上げて下さい!」