第11章 バラと琥珀糖
ギュッと後ろから抱きすくめられて
頬を寄せられたので
杏寿郎の頬に自分の頬をくっつけると
スリスリとすり合わせた
あげはの左手を自分の手の上に乗せると
彼女の薬指の指輪の上から口付けを落とした
「杏寿郎……さん」
こうして過ごす こんな時間が
私は凄く好きだなぁって感じる
私と杏寿郎さんを 穏やかな時間が包んでいた
「色々と、決めなくてはな…。
まずはお館様へのご報告だな」
「決める…と、言われますと?」
「生地を決めなくてはな、仕立てに時間も
掛かるしな。君には白も合いそうだが、
色もいいな!」
「仕立てる?」
「最近は、洋装のドレスもある様だな!
場所はどうする?俺としては、東京駅の近くの
帝国ホテルがいいと思うが?どうだろうか?」
矢継ぎ早に質問をされて
意味がわからなかったが
どうやら彼は結婚式の事を言いたい様だった
いささか 気が早い気がしなくもないが
いきなり 求婚してくる人なのだ
もう 結婚式の段取りをしても
なんらおかしくも ないのかもしれない
杏寿郎さんだし
「私は、別に白無垢でも色打ち掛けでも
ドレスでもいいですが」
「なら、全てだな!どれかだけでは、
勿体無いからな!」
「白無垢は、一度きりですし、仕立てなくても
…いいのでは?」
白無垢を仕立てるには
それなりに値段も張るし どうせその後
誰も着ないのだから 勿体ない気がする
「それはダメだ!初袖で無ければ
いけないだろう?白無垢なんだぞ!」
えっと なぜそれに貴方がこだわるのか…
着るのは私なのでは?と思わないでもないが
どうやら 彼には白無垢に対する
譲れない思いがあるようで……
「兎に角、白無垢は仕立てるそれは譲れない!」
「だったら、聞かなくても良かったのでは…?」
「君は何か、希望はあるか?」
希望はあるかと聞かれて
あげはは うーんと考えると
「そうですね、エビの天ぷらを
山盛り用意してもらいたいです
もし、春であるならタラの芽の天ぷらを、
夏であるなら鰻ですかね」
ムニっと両サイドから痛くない程度に
杏寿郎に頬を摘まれてしまった
「い、いひゃいれす」
「誰と、誰と誰の好物だ?」
そのまま摘まんだ頬を軽く引きながら
杏寿郎があげはに尋ねた
「伊之助と、炭治郎君と、善逸君ですよ…、後」