第11章 バラと琥珀糖
「あ、でも…あの1本は、
ちゃんと私の元にありますよ?」
と2人にしかわからないで
あろう会話をしていた
「あれを他人にやるのは、
流石に俺でも怒るぞ?」
「はい、ちゃんとシリカゲルに
埋めて来ましたから!」
とあげはが嬉しそうに答えると
「埋める?バラをか?」
あげはの言葉に杏寿郎が難色を示した
杏寿郎としては納得が行かないと言う事だ
「ええ、いけませんでしたか?」
「飾っては、もらえないのか?」
「え、でも、色が褪せる前の方が
綺麗に残せますから…」
クスクスクスと後ろから笑い声がして
振り返るとしのぶがそこで立っていて
「すいませんっ、ただ、お二人のやり取りが
面白くて、可愛らしくて…なんと言いますか…」
「なぜ笑うんだ?胡蝶」
笑われている理由がわからず
杏寿郎が顔を顰めた
「だって、可笑しくて…ふふっ、煉獄さんは
飾って欲しいと思ってらしてあげはさんの
方は、保存しようとしてらしたので…」
「だって、あれは…
取っておきたいと思ったから…」
「あげは、バラはまだ残っているのか?」
「ありますけど、どうされるんですか?」
「俺の手で、君の髪にさしたいと思うのだが…
どうだろうか?」
残りのバラは大きな花瓶に入れて
あの時使っていた
他の病室から離れた病室へ置いていたので
杏寿郎を伴って病室へ戻ると
床頭台の上の花瓶のバラを指さした
「残りは…、ここに」
「あげは。俺の願いを一つ…
聞いてくれまいか?」
「杏寿郎…さん?」
スッとあげはの髪に
とまるように留められている
蝶の髪飾りに手を添えると
「今日、君が眠るまでの時間でいいから…、
これの代わりに俺の贈ったバラを
つけていて貰いたいのだが?」
それはつまり
蝶屋敷の家族ではなく
今のこの時間を自分だけの私で
居て欲しいって…意味で
「ダメか?」
「いいえ、いいですよ」
そう言って自分の髪の蝶の飾りを外して
床頭台の上の空いている所に置いた
左右に一つずつかなと思って
ハサミで形の良さそうなバラの茎を2本整えて
手渡そうとすると
「君の美しさには、バラが霞んでしまうからな!
もう4本切ってくれ」
「え?全部で6本ですか?」