第11章 バラと琥珀糖
目の前に出された紙に書かれていたのは
推測ではあるが
彼は私の右耳に血気術で聴覚を共有し
情報を得ていると言う事
そして 私の右耳の中に口があり
それから声を出していると言う事
私がずっと
彼を裏切ったから聞こえていたと
思っていた彼の声の幻聴は
幻聴ではなかったと言う事
「話せないのか…?あげは…」
「み、耳元で…囁かないで…っ下さいっ、
あっ…」
後 恐らくであるが彼の
透真の血気術の能力がその口から発する
声を超えた“音”だろうと言うこと
彼女は確かに魅力的であるが
本人が思っている程
性的に煽るような事はない
こっちが堪えがなくなってしまうのは
恐らくであるが
透真殿が放つその音のせいだ
その音を聞かせる事で
近くにいる相手の男の思考も
ある程度 支配していたのだろう
「君に触れても、いいだろうか?」
そう言って“確かめたい事がある”と
書かれた紙を見せる
そう言われて?
いや 見せられたら 断れない
杏寿郎が自分の耳元の髪を
すくって上げて見せると
耳栓をしているのが見えた
「んっ、でも…
もう、触って…るんじゃ…、あっ」
やはり そうだな
いつもならこんな風に彼女に触れていると
奥底から湧き上がる情動が
制御しがたくなるが
驚くほどにいつもより冷静にいられる…
自分の感情が高まっているから
かと思っていたが あながち
そうではなかったのようだな
「杏寿郎…さんっ…」
いや 前言を撤回するべきだな
彼女は…性的な意味でも…
その音の支配抜きでも
堪らなく可愛らしい…
「あげは、やはり君は、…可愛らしいな」
そう言ってもう確かめられたのか
そっとあげはの頬に口付けて体を離した
いや 離そうとした体に
あげはが自分の体を寄せて来る
これは 流石に俺もマズイ
彼女の方から求められるのは
俺も無下にできないからな
ああ そうか失念していた
彼女の方も彼は支配できるのを忘れていた
彼女がかなり 感じ易い体をしてるのも
彼の出す音が
それを高めているのかもしれないしな
しかし 胡蝶が言っていた通り
厄介な血気術だな
どこまでが 俺の感情で
どこからが
血気術により支配された感情なのか
俺自身にも 正直測りかねる