第10章 追憶 煉獄家にて
姉上にしか使えない呼吸…
「はい!是非、見てみたいです」
あげはは千寿郎には甘いので
きっと千寿郎の願いなら
無下にする事はないだろう
「でも、返す相手がいないと…あの呼吸は…」
「だったら、あの技はどうだ?
汽車で乗客を守った、あの技の中に、入って
みたいのだがどうだろうか?」
「入りたいと、仰るのであれば入ってもらって、
いいのですが。中でじっとして決して呼吸を
使ったりしないで下さいね?」
とあげはが念を押して
中で呼吸を使うと
跳ね返って来るからと注意した
千寿郎と杏寿郎が並んで立っていて
あげはは槇寿郎にどうするか尋ねた
「槇寿郎様は、どうされますか?」
「付き合わん事もない」
と密かに興味があったのか
それに一緒になるように並んだ
フゥウウーーーッ
「鏡の呼吸 伍の型 鏡の迷宮 トリカゴ」
鏡の壁が次々に現れて
鏡のトリカゴに閉じ込められる
外の景色は何も見えない
幾重にも鏡の世界が広がっている
どこまでも どこまでも 続いていて
果てが見えない
とても狭い空間の様にも感じるし
とてつもなく広い空間の様にも感じる
自分の足元を見ると
上の映る無限に続く鏡の景色が
下にも無限に広がっていて
自分の足元の鏡が割れて仕舞えば
その下のどこまでも続く闇に
放り出されるのではないかと
恐ろしくも感じてしまう
上の方から光がさして来たと思うと
鏡のトリカゴは崩れ去って消えて行った
「実に面白い技だな!」
「でも、あまり長時間居ると、気が触れますよ?」
「そんな、恐ろしい所に入れるな」
「まぁ、その時は上の層と下の層を
バラバラにメチャクチャに回転させると、
上も下も右も左も
わからなくなってしまうんです」
「ハッハッハッハハ。目が回りそうだな!」
「そう言った意味では、
ないような気がしますが…」
随分と遊び過ぎてしまって
遅れて朝食を摂ると
荷物をまとめて着替えをして
蝶屋敷へ戻るべく煉獄家を後にした
千寿郎と槇寿郎に見送られて馬車へ乗り込んだ
この時間からだと
どこかでお昼にしないといけなくなりそうだし
帰るのは午後になるだろう
馬車に揺られていると杏寿郎が
「今回は、胡蝶にも世話になっているからな!
昼飯ついでに、胡蝶へ手土産を用意したいのだが
…いいだろうか?」