第10章 追憶 煉獄家にて
杏寿郎が声をかけようかと思って
「あげは…、もう戻っ…!!」
向き直るとあげはが徐に
こちらに構う様子もなく
着物を脱ぎ始めたので
声をかけそびれてしまった
肌着はつけているので全裸ではないのだが…
こちらに全く気を向けてない様子だし
少しばかり見ていても…と
邪な発想が浮かんでしまうが
あっと言う間にあげはは稽古着に着替えて
出て行ってしまった
「朝食の支度が、朝稽古に変わったのか?」
しかし 千寿郎はまだ眠ってるし
誰と稽古をするつもりなのだろうか?
あげはは朝食の手伝いに
行くと言っていたのに
稽古着に着替えてあげはが中庭に戻ると
槇寿郎が木刀をこちらへ投げて寄越した
「私も、肋骨骨折してますし。
私はボルト固定してないので」
「何が言いたい?手加減しろとでも
言いたいのか?鬼はこっちの都合に
合わせて来てはくれんぞ?」
それはまぁ
お言葉の通りではあるんだけども
「ほどほどで、…お願いしますよ。槇寿郎様」
それまでのふんわりとして穏やかな空気を
纏っていたあげはの
周囲の空気が張り詰めた物に変わる
構えているのは木刀だが
呼吸を乗せれば木刀でも
巻藁くらいは断つだろうし
木刀だからって安全ってわけでもないが
コイツと顔を合わせる事も無くなって
5年近くになるが…
あの泣き虫のチビ助が
ここまでの剣士に成長するとは
正直俺も 予想もしていなかった
1年で柱になったのも 驚いたが…
「考え事ですか?勝負の途中ですよ?」
すぐ前にあげはの顔があって
一瞬で間合いを詰められたと知った
「炎の呼吸 弍の型 昇り炎天」
あげはが炎を纏って切り上げる攻撃を
「参の型 気炎万丈」
上から斬り下ろす 技で槇寿郎が受ける
サイドに身を翻して軽くかわすと
再びこちらへ向かってくる
「炎の呼吸 壱の型 不知火!」
「不知火」
ガアンッ お互いの
横に一閃した木刀がぶつかる
スゥウウウウッーー
この音 水の呼吸か?
元々あげはは水の呼吸の使い手
こっちの方が適応も上だ
「だぁああっ!!」
速いっ 雫波紋突きか!
繰り出されて喉に向けられた
木刀の先を盛炎のうねりで受け止める
女の力だがスピードを乗せれば
それなりの重みが手に伝わる
パワー不足を補う呼吸と技の応用