第10章 追憶 煉獄家にて
「あげは…」
名前を呼ぶと
髪の中に指を差し込んで
指でとかすように優しく撫でつけられると
キュッと胸が締め付けられる感じがした
なんか
さっきまでの撫で方と違う…感じするな
「この撫で方は…嫌か?」
そう確認して来る聞き方も声も優しい
「え、いや、…嫌では…ないですが…」
「そうか、他にはないか?」
他にして欲しい事は
ないかと聞かれて
でも私と杏寿郎さんの間には
千寿郎君が眠ってる訳で
「あ、だったら」
「何だ?」
「おやすみなさいの、口付けとかは…?」
恐る恐るそう尋ねてみると
杏寿郎が微笑んで
そっと触れるだけの
口付けをあげはの頬にした
「おやすみ、あげは」
「あの、杏寿郎さん」
名前を呼ばれて手招きされる
あげはの方へ顔を寄せると
「おやすみなさい、杏寿郎さん」
とあげはが囁くように言って
俺の頬に口付けた
そしてその幸せな気持ちのまま
眠りに落ちて行った
ーーーーーーーーーー
あげはが目を覚ますと
夜が明けてすぐだった
杏寿郎の姿は布団にはなく
室内を見回すと
文机に向かう杏寿郎の後ろ姿を見つけた
「起きたか?それとも、起こしてしまったか?
おはよう、あげは」
手紙を書くには明るさを随分と落とした
明かりをともしていたので
杏寿郎が寝ている私と千寿郎に
気を遣ってくれていたのが分かる
「おはようございます。杏寿郎さん。
いえ、大丈夫ですよ。
そろそろ起きる時間でしたので」
隣に眠っている千寿郎を起こさないように
そっと布団から出ると
鏡台に向かって簡単に身支度を整えた
「では、私は朝食の準備を…手伝って来ますので」
「ああ」
あげはが離れを後にして
台所のある母家へと向かっていると
こんな早い時間から中庭で素振りをしている
槇寿郎の姿を見つけた
「おはようございます。槇寿郎様
随分早くから、鍛錬ですか?」
「ああ、お前か。まぁな…」
杏寿郎との手合わせで体力が随分と
落ちていたのを気にしての事なのだろう
「ちょっと、付き合え」
「でも…」
「朝食は、使用人に任せておけ…」
「でしたら…、着替えて参りますので…
お待ち頂いても?」
「さっさとしろ」
さっきあげはが離れを出たばかりだったのに
すぐに戻って来たので