第10章 追憶 煉獄家にて
「兄上、姉上、
まだ起きておられますでしょうか?」
この声は千寿郎だ
ガラッ 襖を開くとそこには
申し訳なさそうな顔をした
千寿郎が立っていて
「どうした?千寿郎、…こんな夜更けに」
「はい。どうしても…、
今日はご一緒したく…ありまして
あの、…ご迷惑…でしたでしょうか?」
と自分の枕で恥ずかしそうに
顔を半分隠しながらおずおずと尋ねてくる
あげはの方を向いて
どうするのかと尋ねる間も無く
「こっち、こっち来て、千寿郎君
ここで寝るといいよ!真ん中!」
千寿郎に自分と俺の布団の真ん中を
トントンと叩いて
嬉々とした様子で千寿郎に入るように促した
俺が真ん中ならわかるのだが
千寿郎が真ん中なのか?
「千寿郎が…真ん中なのか?」
と杏寿郎が不満気に漏らしたのを聞いて
「いけませんでしたか?兄上?」
申し訳なさそうな顔をして千寿郎が
潤ませた大きな瞳で
上目遣いに杏寿郎を見上げて来て
胸の中の良心が痛んだ
「いいに決まっている!
千寿郎が真ん中で寝るといい!」
時間も遅かった事もあり
布団に3人で入ってしばらく話をしていると
千寿郎は穏やかな寝息を立てて
眠りに落ちてしまった様だった
「寝ちゃったね、千寿郎君…」
あげはが眠っている千寿郎の顔を嬉しそうに
顔を綻ばせて眺めていて
俺としては内心複雑な心境であったのだが
「君は、いささか千寿郎に
甘いんじゃないか?」
「えー?そうかな?でも仕方ないよ、
だって可愛いもんっ!」
なんか色々 可愛いで済ませたな…
「可愛らしい、寝顔…」
「君の寝顔も、可愛らしいがな」
「でも、杏寿郎さんの寝顔も…とても
可愛らしかったですよ?」
と流れで言ってしまって
言ってからあげはがしまったと言う顔をした
「見たのか?」
「見られてばかりだったので、
釈然とせず…つい」
「それはいいが、俺としては…
君が俺の弟を可愛がり過ぎるのが
…気にかかるのだが?」
「いいじゃないですか。いつも杏寿郎さんの
分もお家の事をしてくれてるんでしょう?
一緒に居る時くらい、甘やかしたって、
バチあたんないですよ」
「あげは…」
「何ですか?杏寿郎さん」
「君は…俺の事は、
甘やかしてはくれないのか?」