第10章 追憶 煉獄家にて
「だが、確認したら…
断るつもりだったろう?それは良くない」
「だ、だったらどうしろって
…言う…んですかぁ」
でも すごく すごく
嫌な予感がする この人のこの性格なのだ
「君の首ばかりを執拗に、
責め立てるがいいのか?」
そう言って悪戯っぽく笑った
なんか 滅茶苦茶楽しそうな
顔してるんですけど?
スッと顔を寄せようとしたのを
あげはに手で制止されて
もうこれ以上はダメだと合図された
「いい訳ないです!ちょっと、
杏寿郎さんは、…度が過ぎます」
キッパリと断って制止してしまったが
彼はそんなに
気を悪くした様子がなくて安心した
座ったままで後ろから抱きしめられて
彼の口元がうなじの辺りにあるので
吐息が掛かってくすぐったく感じるのは
普段なら気にもならないだろうが
きっとさっき
杏寿郎さんに首に口付けられた所為…
さっきの声…
俺が思って想像していた以上に
可愛らしい声だったな…
普段の声色と違っていて
女の甲高い嬌声は耳につくが…
あげはのその声は 耳に心地良くて
もっと いつまででも聞いていたい
気持ちにさせられる
可愛くて 甘い 甘い…声
まぁ それは断られてしまったのだが…
彼女は相手の言葉を
言葉以上に疑って受け取らないし
俺の事を信用して信頼し過ぎるのも危ない
やはりどうにも 隙があるように感じて
思っている以上に欲張ってしまうのだ
今だってそうだ
ほんの少しと思っていたのに
本人は断ってるつもりなのだろうが
俺は逆に 煽られている気分になるし
そのつもりがないにしろ 相当危険だ
「君は…、全く。男泣かせな…女だな」
と独り言の様に呟いたのを聞いて
「すいませんっ、私に…事情さえなければ
…杏寿郎さんにご無理をしてもらう必要も
…ないのですが」
「だから、そう言う所だと言っている!!」
頭を抱えながら杏寿郎が言った
「え?」
「だから、君の言葉通りに取ると、事情が
なければ、いつでもいい事になってしまうぞ?」
キョトンとあげはが
目をぱちくりさせていて
「そう、言ったのですが…
いけませんでしたか?」
とあまりにも当たり前の感じに
真顔で言われてしまい
俺の方がどう答えたらいいのか
わからなくなってしまった