第82章 集いし 炎屋敷
宇髄は…その頃…
その近くの建物の屋根の上に居た
俺の事を探して
周囲をキョロキョロとしている
甘露寺の姿が見える
俺は耳が良いから
甘露寺が俺を見つけて
かなり離れたところから
呼んでいた声は聞こえていた
「悪いな…甘露寺…。俺は…ちょっとばっか、
そっち行く、前に…野暮用があるんだわ。
後で、煉獄んトコに、お前用に
桜餅…持って行くから許してくれ」
宇髄はそう…蜜璃の耳に届くはずのない
謝罪の言葉を述べると
そのまま屋根の上を走って移動して行く
目指している先は…
煉獄とも一緒に行った…あの場所だ
透真の…アイツの…お気に入りの場所…
1年中咲いている…狂い咲きの桜の木の元だ
「相変わらずここは…、
いつ来ても…変わらねぇな。
ずっと…おんなじ…景色…で、
代り映えがしやしねぇ…。
変わらなさ過ぎて…な。俺も
勘違いしちまいそうなんだわ…、透真。
お前に…あげはの事を…託されたのは
つい…昨日の事なんじゃ…無いかって…な」
宇髄が桜の木の幹に手をついて
その木に向かって問いかける様に言った
当然 相手は桜の木なのだから
その木が宇髄の言葉に返事を返して来る事はない
あの日の あの時と
何ら変わらない ここの光景に
まるでこの場所だけが…
あの日のままで時間が
止まっているかのようだった
この桜の木の陰から
アイツがいつものあの笑顔で…
出て来るんじゃないかって…
「透真…。お前は…最初から…
全部…知ってやがったな?
知った上で…、俺に…あんな事を言ったのか?
自分が居なくちまった後に、
アイツが…あげはが…、煉獄と…
こうなる事も…知ってやがったのか?」
サワサワっと…風が吹き抜けて
ヒラヒラとその桜の花びらが空に舞う
「透真…、それが…お前の選択であり、
お前と言う男が選んだ…答えなんだな?」
はぁ…っと宇髄がひとつため息を付くと
桜の木の幹に自分の額を押し当てた