第81章 その琥珀糖はまるで
不死川は顔と身体は墓に向けたままで
視線だけをこちらにやると
それだけ 返して
その視線も前の墓の方へと戻した
「こんな事を…
私が言うのも…なんですが。
二兎を追う者は
一兎をも得ずですよ?不死川さん。
それに…不死川さんが
追いかけてるのは、只の幻です」
「んなこたぁ、
俺が一番…分かってら…ァ。
兎は…、兎らしく、
月で餅でも…ついてんだろうよ」
墓の前でしゃがみ込んでいた不死川が
すくっと立ち上がると
そのまま しのぶの方には
目もくれずに…数歩歩き出して
少し離れた場所で その足を止めた
「確かに、兎は…
お月さまに帰ってしまったようですが。
もう、1羽は、お月さまではなく、
太陽に向かった様ですね。
向かった先が、月と太陽では…
不死川さんでも…流石に
二兎を追うのは難しいでしょうし…」
「お前も…宇髄…みてぇに。
…俺に…現実見ろって言いてぇのか…ァ?」
「不死川さんも…、
もう…良いんじゃないかなって。
簡単に…捨てられない気持ちも、後悔も…
もう、やめちゃったらどうですか?」
「そんために…、俺ァ…
この話に…自分のこん首を
突っ込むって…決めた口だァ。悪ぃかァ?」
くすくすくすと
口元を押さえながらしのぶが笑って
「いいえ、そうですか…、全く、
……不死川さん…らしい…ですね。
でも…、不死川さんのそう言う所は…、
私は、素敵だと思いますよー?」
「んな、しょうもねぇ様な、
当たり前の事…
言ってんじゃねぇ…、よせやァ」
「(本当に…不器用で、
…変な所で律儀…なんですもの…)」
そうしのぶが
不死川に対して言うのではなく
その言葉は胸の中に押しとどめたままで
去っていくその後ろ姿に対して
聞こえない位の独り言の様にして呟くと
その背中に視線を送った