第81章 その琥珀糖はまるで
ギュウウっと自分の身体の前に
あげはがその蛍石を引き寄せると
「ならば…、あげは。この石が
…11年の歳月を経て…
今……このタイミングで
君の元に戻って来たのも。
その為…なのかも知れないな…、
この琥珀糖の様な、
この石が…もたらした奇跡にも
そんな風にも感じてしまいそうだが…。
そうなるべくして、そうなったんだろうな」
しばらく…その小さな瓶の中に入ってる
琥珀糖の様な…蛍石を2人で眺めていて
「それより…、
あげは。化粧は…済んだのか?」
「いえ…、すっかり…この蛍石を
魅入ってしまっておりまして。
自分の支度が途中であったのを…
忘れておりました。
杏寿郎をお呼びいたしましたのも…、
私に杏寿郎のお手で…私の唇に
紅を差して頂きたくありまして」
「良いのか?だが…しかしだな、
あげは、…俺に…君の紅を差させて…
まともに紅をさせて試しが今まで
俺の記憶が確かなら、一度たりとも
無かった様な気がするのだが…な」
「女の化粧は…
ある意味…戦支度に御座います。
その支度の仕上げを…
杏寿郎の手でお願いしたいのであります」
「そう…君に言われてしまっては…、
断わる理由が…俺には…無いな…」
「赤く…濃く…乗せて頂いても?」
杏寿郎の手で小町紅を差して貰って
あげはから赤く濃く
差して欲しいと言われたので
深い…玉虫色の光沢が出る程にその色を乗せた
効果な…小町紅を…濃く差して欲しいと言った
あげはの感情が…
その言葉からも溢れる程に感じて
女の化粧は…戦支度…と言う
あげはのその言葉を理解した気がする
白粉で透き通る様な白い肌に整えられた顔に
その赤は…目を釘付けにして逸らせない程に
冴え冴えとして…冴えわたって居て
その…深い深い 深紅の唇から
杏寿郎は視線を逸らせないで居た