第81章 その琥珀糖はまるで
前に…あげはからは…
そんな話を聞いた覚えが杏寿郎にはあって
あげはの名前も蝶の名前から
付けるかどうか育ての父が悩んでいたのだと
そんな会話をあの狂い咲きの桜の木の所で
交わしたのを杏寿郎は思い返していた
「彼と夜にこっそり、部屋を抜け出して
父のコレクション部屋に忍び込んで。
色々な物がある、父の部屋で…
父の宝物を冒険者にでもなった気分で、
物色しておりまして。ホルマリン漬けを
見つけて悲鳴を上げそうになって
彼に口を塞がれたのも…、思い出しましたし。
色々な鉱石がある中から、
この…色々な色を持つ石を見つけて。
その繊細な色合いの美しさの虜になってしまって
その夜も2人で父のコレクション部屋に
こっそりと忍び込んで蛍石を眺めている所を
父に見つかってしまいまして…。その時に父が
この石をどっちかにあげると喧嘩になるからと
彼に預けたものです…。彼に預けて置けば
2人で見たい時にいつでも見れるからと…父が」
「その蛍石…と言う石の話は
俺は…初耳…だったんだが…。
どうして、これは…今、ここにあるんだ?
彼は君にこれを渡さなかった理由は…。
君に掛けていた暗示が
解けるきっかけになるからか」
あげはが自分の手の中にある
蛍石を眺めながらその横顔に影を落とす
「これは…先程…環が…義勇から
預かって来た物であります…、
水屋敷に…、これが大切に
保管してあったのだそうで…。
恐らく私の物だろうと、
義勇が環に託してくれた様でして。
私の記憶も…これを見るまでは…、完全に
抜け落ちていて、忘れておりましたので。
あの時…杏寿郎から頂いた、琥珀糖を見た時…
食べてしまうのが惜しいと…眺めて居たいと
そう思った幼い頃に彼とこの石を
眺めていた時の感情だけを…、
その時に…偶然に、
思い出したのかも…知れませんね」