第81章 その琥珀糖はまるで
あげはが座っていた鏡台の
引き出しをガラッと開くと
小さな瓶の中に見覚えのある物が入っていて
全部食べた様に言って居たのに
まだひとつだけ食べずに
残していたのかと思ったのだが
「杏寿郎、これは…杏寿郎が
私に贈って下さった
あの、琥珀糖ではありませんよ?
これは、私が…住んでいた…
あの病院の跡地の
片付けをしていた隠の人が、
あの場所にあったこれを偶然に見つけて、
拾ってくれていた物なのです…」
「……っという事は…それは、
12年前の…琥珀糖…なのか?」
そのあげはがその手に持っている
瓶の中身はどう見ても
俺があげはに贈った琥珀糖に見えるが
それは俺が贈った琥珀糖ではなく
あげはが幼少期を過ごした
あの悪夢の現場である病院から
隠が偶然見つけて拾った物であると話をして来て
思わず驚いてしまって
そう聞き返してしまったのだが
くすくすとあげはが俺の質問を聞いて
口元を押さえながら堪える様にして笑っていて
「すいません、杏寿郎。
笑ってしまって…居てはなりませんね。
残念ではありますが、こちらは
琥珀糖ではありませんので」
「そうなの…か?」
「これは…蛍石と言う石なのですが…。
この蛍石は、元々私の所有物ではなくて…。
あの…アルビノの彼が…
大切にしていた物なのです。
その隠は…、あの場所で見つけたこれを…、
唯一の生き残りである私に渡して欲しいと言って。
透真さんに渡した様でしたが。
その後も、この石は
透真さんの手元にありながら、
私の元には巡って来る事はなかったので…。
元々は私の父が色々な物を集めるのが好きで、
古銭や、切手や蝶の標本を集めて居たのですが。
鉱石もそのコレクション中の一つだったのです」
「そうだったのか、俺はてっきり
俺があの時の傷の縫合の礼にと…
胡蝶に預けた、あの琥珀糖かと思っていたのだが…
そんな…あの琥珀糖に良く似た宝石があるんだな」