第80章 それぞれの前夜
自分の分をその手に持って
半分にした桜餅が乗った皿を
伊黒の方に差し出す
「はい、こっちが…伊黒さんの分ね」
正確に綺麗に半分こじゃなくて
ちょっとだけ…自分の方を大きくしたの
沢山食べたかったからじゃないのよ?
伊黒さん…甘いの苦手みたいだし…
食べ過ぎちゃったら…しばらく食べられないって
前に何かの時に言ってたから
私の我が儘に付き合わせて…栄養が
偏っちゃっても…いけないものね…ッ
「頂きましょ?美味しそうだわ~」
それからね
伊黒さんとね桜餅をね
半分こにして食べたの
そうしたらね…
伊黒さんそっぽをね向いたままでね
悪くない…って言ったのよ
それって美味しいって事よね?
普段なら一口で全部食べちゃうけど…
伊黒さんと半分こにした桜餅は
ゆっくり味わいながら食べたの
それまで…食べていた桜餅と
その桜餅は同じ味のはずなのに
その半分こにした
桜餅の方が美味しい様に感じて
「うふふふ、美味しいわぁ~」
「甘露寺」
「何かしら?」
「また、桜餅…買って来る」
「いいの?嬉しいわ!
だったら、伊黒さん。その時も…、
また、今日みたいに…半分こにしましょ?」
「ああ、そうだな…それも…悪くない。
甘露寺…、明日は…
煉獄の屋敷に行くんだろう?」
伊黒が聞きたいと思って居た
内容について蜜璃に切り出して来て
言葉での返事を蜜璃が返す前に
次の桜餅が 1つ2つ3つと
次々に蜜璃に口に吸い込まれて行っていて
もぐもぐと蜜璃がその桜餅を咀嚼すると
ごくんと…音を立てながら嚥下して
「えっ、ええ。そうなの…。
明日は…あげはちゃんと、
煉獄さんにとってとぉっても、
大事な日になるから…。私なんかで
役に立てるのか…分からないけど…ッ。
あげはちゃんと煉獄さんを、
私っ、全力で応援したいって思ってるの」
そう力説しながら
両手の拳をぐっと蜜璃が握りしめていて
その目には…一切の迷いらしい
迷いが何もなかったのだが