第80章 それぞれの前夜
「…あれだけ…飲んで置いて
まだ…飲むのか?」
「俺は…、こう見えても…元忍だからな。
毒にも…身体を子供の時から
身体を慣らしてあっし。
それに、酒にも…
そうそうに酔ったりしねぇんだよ」
「なら…、酒を飲む…意味があるのか?」
酔う事も出来ない様な酒を
飲む事に意味があるのがと言いたげに
義勇がその端正な整った顔を顰めながら
そう宇髄に対して問いかけて来て
「ん~?理由か?俺が…ろくに酔いもしない…。
そんな酒を飲む理由…なんざ、お前にだって
聞かなくても…、分かる事じゃねぇの?冨岡」
ふぅっと義勇が小さくため息をついて
やれやれと言いたげにしながら
これまた小さく首を左右に振って
「宇髄…お前は…、器用な男かと
俺は…思って居たんだが…。
案外…不器用な…所もあるんだな…、
だが…、お前の…
そんな所は…悪くない…と思う」
そう言いながら視線は月に向けたままで
手だけを義勇が宇髄の方へ差し出して来て
宇髄が酒で満たした グラスを
その義勇の手に握らせると義勇が
無言のままでそのグラスを受け取って
チン…とお互いのグラスを合わせて
小さな乾杯をするとぐぃ――と
一気にそのグラスの中の酒を飲み干した
「んな事、…俺の30倍位…
不器用そうなやつには…俺だって
言われたかねぇよ…。だがな…、
冨岡…。これだけは
言って置いてやってもいい。
俺は…案外なぁ、お前の…そう言う
不器用さ…みたいなの、嫌いではない訳」
そう言って自分の手で
一升瓶からグラスに新しい酒を注いで
グイっとそれを宇髄が一気に煽ると
「ははは…そうか、なら…お互い様だな…」
ぱちぱちと…驚いた顔をして
宇髄が義勇の方を見て 瞬きをしていて
「ん?どうかしたのか…宇髄…」
その様子を見た義勇が
宇髄にそう問いかけして来る