第9章 療養編 煉獄家にて
きっともう…誰かにこんな風に
抱きしめられて名前を呼ばれたり
こんな風に心が満たされる日が来るとか
そんな事は もうないって…思ってたから
戸惑いもしたし 迷いもした
否定もしたし 拒否もした
ギュッと自分の胸が締め付けられて
言葉を 返事をしなくちゃって
返さなくちゃって思ってるのに
どんな事を言えば…いいのかわからなくて
そう思ってるに
感じてるに決まってるのに…
それだけの事も伝えられなくて もどかしい
自分の体を包んでいる
彼の腕に自分の腕を重ねて
キュッとその手の上から握る
「杏寿郎…さん…」
「ん?何だ?あげは…」
あげはが俺の方へ体を捻って向いて
俺の肩へ腕を回して来たかと思うと
自分の方から唇を重ねて来て
一瞬驚いてしまったが
これが彼女の返事なのだと
その口付けを受け入れる
「俺からも…したいが、いいか?」
「で、でも…今されると…その」
彼女の感情も…昂っていると
…言うことなのか
それは 今俺に口付けをされると
声が漏れてしまうのを心配してるのだろう
「俺に、遠慮はいらんぞ?恥じらう、姿も
…悪くはないが。ありのままの君を
俺には、見せては貰えないだろうか?」
目の前のあげはは困惑してる様子だった
声を…抑える
必要はないと言われているけど
それは…いいのだろうか?
抑えなくて いいと言うことは…垂れ流す訳で
「そんな事、できませんっ!はしたない…
女だと…思われたくないですし?…その…」
「あげは、慎ましやかなのは…結構だが」
声が低い 怒ってるの…かな?
声抑えなくていいって言われたのに
断ったから?
「ではせめて、君がそうまでして、
頑なに聞かせたくない、理由は何なんだ?」
「……ーーーからですっ」
前半に何を言ったのか
声が小さくて聞こえなかったが
「もう一度、…言ってくれないか?」
「だって…、どうしようもなく
…なっちゃうのにっ…」
抑えなくていい 我慢しなくていいと
言われて 許されてしまうと
それこそ どうしようもないくらいに
融通の効かない私に…なってしまいそうだ…
「俺には…聞かせられないか?
それとも…俺だから聞かれたくないと
…言いたいのか?」