第9章 療養編 煉獄家にて
凄い 気迫を感じる… 木刀なのに
ザリッ 少し足を開いて
杏寿郎が腰を落とすと
木刀を横に向けて構え直す
あの構えは…不知火で来るつもりか…
ビリビリと頬に さっきまでとは
比べ物にならな程の 気迫なのか
闘気…と言う物なのかを
千寿郎は感じていた
向かい合う 槇寿郎と杏寿郎は
同じ構えを取っていた
ゴクリ 千寿郎は固唾を飲んで
始まりを…待っていた
千寿郎の後ろの明け放たれた和室に
あげはがよいしょと腰を下ろして
夕飯の下拵えをするつもりなのか
新聞を汚れないように広げてじゃがいもの
皮を剥き始めた
ここに居るだけで
体が全身 鳥肌立っていて
息が止まりそうに
詰まりそうにも感じるのに
何が 凄いって
この人はそれを横目に見ながら
夕食の下拵えをするつもりで
いらっしゃる所とか
やはり姉上も
柱にまでなられた方なんだなと思ってしまう
「こっちじゃなくって、
あっち見てないと。始まるよ?」
そう言ってあげはがにっこりと笑った
「「炎の呼吸 壱の型 不知火っ!!」」
あげはの“始まる”の言葉通りに
2人が同時に同じ技を繰り出し
中央でぶつかり合う
「「炎の呼吸 弍の型 昇り炎天!」」
ゴォオオオオッ 2人の描く 炎の輪が重なる
同じ技をぶつけ合う 応酬が続いていた
不知火には不知火
昇り炎天には昇り炎天
気炎万丈には気炎万丈
私だったら
不知火を不知火で受けたりしないし
不知火を受けるなら
昇り炎天か盛炎うねりのが
いいと思うけどなぁと思いながら
じゃがいもの皮を剥いていく
でも昇り炎天を受けるのなら気炎万丈か
不知火でもいいなぁとか考えたりしつつ
ガァン カンッ カン
木刀のぶつかり合う音が中庭に響いていて
千寿郎はその光景から
目が離せなくなっていたのに
あげはは手の中のじゃがいもばかり見ながら
「ああ、…ちょっと浅かったな」
と漏らすように呟いたと同時に
ガランッーと 杏寿郎の手から木刀が落ちた
「炎柱とあろう者が、…この程度か?
…さっさと拾え!」
杏寿郎を挑発するように
自分の木刀で肩をトントンと
叩きながら槇寿郎が言った
「言われなくとも!!」