第9章 療養編 煉獄家にて
この息子の性格だと そんな悠長な事を
思ったりしないと思うのだが…
「お前にしては、珍しいな、いいのか?
…あまり呑気なことを言ってると…」
他の男に取られるとでも
言いたいのかもしれないが
「それについては…、
良く理解しているつもりですが…」
実際 彼女は…モテていた訳だし…
「まぁ、…気が強いと言うか、
変な所で頑なだしなぁ。あいつは」
変な所で頑な…か 言い得て妙…だな
「彼女は、確かに頑なな所もありますが、
芯が強くて、とても優しい女性です」
「…似てると思う…か?」
それは あげはが母上に
似てると感じるかどうか
と槇寿郎は聞きたい様だった
「言い出したら、聞かない所とかな」
杏寿郎の答えを待たずに槇寿郎が続けた
見た目とかではなくて
内面的な…と言う事か
「アイツとは、良く仕事で一緒になる事が
多くて、手紙のやり取りなんかもしてたが…。
瑠火が娘が欲しいと言っていた時期があって…、
娘の様に思ってたのかも…しれんが…」
「放っておけない…と、お感じに?」
杏寿郎の“放っておけない”と言う言葉が
妙に納得が行った
「心の底から、…相手の事を考えて怒ったり、
泣いたり…口調や言い回しこそ違うが、
そっくりだがな」
「でも、…あげははあげはですよ。父上」
「そら、そうだがな」
お互いの想い人は唯一無二なのだと
「何だ?惚気…てんのか?」
「父上こそ…、そうなのではないのですか?」
今日でここで過ごすのも
5日目になる
「父上、…もしよろしければ、
お付き合い頂きたくあるのですが…」
「付き合う?俺よりも、
アイツの方がいいんじゃないのか?」
「彼女とも、そうしたい気持ちもありますが。
今、じゃないと叶わないので。
…一手、ご教授願いたい」
一手ご教授… 俺と手合わせがしたいって事か
「ろくに鍛錬の一つもしていない、
…俺から…何を、学ぶと言うのか?
…まぁいい、付き合ってやらん事もない」
夕食の買い出しから
あげはと千寿郎が戻ると
中庭に稽古着姿で
木刀を構える2人の姿があって
「千寿郎君、今日はお手伝いはいいから…、
近くで見ておいで」
とあげはに促されて
中庭の2人が良く見える 縁側に正座した