第78章 待宵月が見下ろすは…罪
『葛葉…ッ、素直…ジャナイ…。
葛葉モ、杏寿郎…気二入ッテル…』
「五月蠅いぞ、馬鹿鴉。
その羽を全部むしり取って、
焼き鳥にでもされたいか?鳴門」
『デモ、ヨカッタノカ?
アノママ、槇寿郎ノ、屋敷…イナクテ…』
むっ…と葛葉が
その端正な顔を歪めながら
鳴門を睨みつけるような視線を向けて
「千寿郎も…、難しい年頃だからな…。
突然に現れた、自分の父親と
妙に仲がいい女が。何日も
屋敷に居座ると…
複雑な気分になるだろうしな…。
ま、まぁ…。その…、あれだ…。
全てが…、上手く行けば…、
また…行ってもいい…とは思うがな」
『素直ジャナイ…』
そう葛葉の耳に届かない様に
小さな声で鳴門が言った
「……ッ、聞こえてるぞ?馬鹿鴉」
『カァーカァー』
聞かれていた事を誤魔化す様にして
鳴門が喋らずに鴉の鳴き声を
わざとらしく出して来るから
それ以上…鳴門を責めるのも
馬鹿馬鹿しくなって葛葉が
グイと自分の手の酒を煽った
トクトクとその盃を酒で満たすと
その表面に宵待月が写って
その…表面がゆらゆらと揺らぐ…
グイっとその月毎葛葉が酒を飲み干して
「槇寿郎…、お前も今頃…
この月を相手に…独り酒…でもしてるのか?」
葛葉が…目を細めて
空に浮かぶ月を見上げていた
この月の向こうに…
居るのか居ないのかも分からない
その姿を…ひとり…思い浮かべながら
女はひとり…盃を傾けていた
その男も…また 同じ様にして
盃を傾けていた事に
お互いが気付く事もなく…にして
同じ時を同じ時の下で…
重ね合っていたとも… 知らずに
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