第78章 待宵月が見下ろすは…罪
「千寿郎、アイツは
顔だけは昔から無駄に良い。
お前も葛葉の、あの見る物を惑わす
見た目に騙されているかも知れんが。
そこの華奢な身体に見合わん
大飯食らいの大酒飲みのガサツな女だぞ。
あの歳を取らない仙人の様な妖怪女の名は、
葛葉と言う。あげはが女狐なら。
あっちは、九尾の化け狐だ。
ああ見えているが、アイツは
俺よりも、4つほど年上だからな」
「槇寿郎、女性に歳の話は
ダメだとあれほど言っただろうに。
仕方ないだろう?私は、お前とは、同期だが。
私には吉原の遊女と言う、
前職があったからな。その小さい
杏寿郎の様なのも、お前の倅か?
槇寿郎、お前には…
杏寿郎の他にも子が居たか。
小僧、名は千寿郎と言うのだな。
歳は幾つだ?もう、12は超えているのか?」
「葛葉、お前は
俺の息子に何をするつもりだ?
俺がそれを許すつもりがないだろう?」
「相変わらず、
真面目で硬い男だなぁ、お前は。
ほんのちょっとした、可愛らしい
冗談も見抜けぬ様では…。
男が硬いのは、
アレだけで十分だぞ?槇寿郎」
そう言って葛葉が何かを握って
扱く動作を空中でして来て
「…呆れた物言いをしおって。
お前が相変わらずで、
息災なのは理解したが。
難しい多感な年齢の息子の前だ、
ちょっとはお前も、
遠慮と言う物をしろ。葛葉。
それより…葛葉、俺が、何度文を出しても
無視を決め込んでいたお前が…。
今、家に来た理由は。何だと言っている」
槇寿郎が飄々として掴みどころのない
返事ばかり返して来る葛葉にそう言うと
箸で白ご飯を掴むと
あーんっと大きな口を開けて
ぱくっとそれを自分の口に含んで
もぐもぐと咀嚼するとゴクンと飲み込んだ
「今朝…、まだ早朝の時間にだが…。
槇寿郎。お前のもう一人の息子に…、
杏寿郎に会いに行って来たぞ?」
「会いに…、杏寿郎にか…?お前が?
山から降りるなぞ、滅多とて無いが…
お前から、杏寿郎に会いに行ったのか?」
ふりふりと
葛葉が手に持っている箸を天井に向けて
円を空中に描く様にして振ると
「らしくない…とでも言いたいのか?
だがな、……槇寿郎…私は…、
透真の事には、時折…悩むのだ…。
悩んで悔いても、答えが…見つからん…」