第78章 待宵月が見下ろすは…罪
玄関の履物は女物であったから
来客は女性であるのは確かだが
俺を尋ねて来る女の客…など…居ただろうか?
俺には…皆目 見当もつかないのだが
じぃーーーっと千寿郎の視線が
こちらに刺さる程に向けられていて
槇寿郎としては自分の子に
浮気がバレた父にでもなった気分になったが
生憎俺にはそんな疚しい所が無いので
一体誰が 自分を尋ねて来たのだろうかと
その足で客間の方へ向かうと
空になった食器を持った望月が
丁度客間から廊下へ出て来て
客人に昼食を出してもてなしていた様だった
その空になった食器の山を見ていると
以前杏寿郎の継子だった
甘露寺蜜璃を思い出してしまうが
あの甘露寺が来ているなら
今頃は台所から叫び声の様な雄たけびが
聞こえていてもおかしくない
槇寿郎には憶えがあった
女だてらに 華奢な身体をしているのに関わらず
甘露寺と言う名の
杏寿郎の継子の女程ではないが
食事をやたらに平らげる
ある隊士の存在を思い出した
あの女は
やたらに飯も食う奴だったか
それ以上に 浴びるほどに大量の酒を
水の様に酒を飲む奴でもあった
俺に取っては…
数人居た同期の隊士の中でも
忘れたくても忘れられない様な
腐れ縁の様な存在だったな
あの女は…
忘れようにも…忘れられない…か
「もしや…、葛葉が…来ているのか?
葛葉…であるなら、明日は季節外れの雪か…。
はたまた…槍でも降るだろうな…」
葛葉には… 何度か俺から
文を出した覚えがある
当の葛葉からは
返事らしい返事が返って来る事は無かったが
一文 二文だけ書かれた文が
出した手紙の存在を
こっちが忘れた頃に
ぽろっと…戯れの様にしてに来る事はあった