第78章 待宵月が見下ろすは…罪
俺が千寿郎を連れて屋敷を出る前までは
こんな事にはなって居なかったはずだ
俺は朝食を
半ば強制的に摂らされるまでは
この中庭で稽古を
夜明け前からしていたのだから
だが…これでは
とてもこの中庭では
稽古の続きが出来る状態ではなく
「オイっ、一条。
これは一体どう言う事なんだ?」
「ああ、旦那様。千寿郎坊ちゃんと
散歩からお戻りになられましたのですね。
お帰りなさいませ、少々お待ちを、
今、お茶を淹れて参りますので」
そう言って 逃げる様にして姿を消した
清水と入れ替わりに姿を現した
一条に声を掛けるが
「オイっ、一条…ッ」
一条は一条で
そのままこちらへの返事を返さずに
台所までこっちがお茶は要らんと言う間も
与えずにお茶を淹れに行ってしまって
「全く…、どいつもこいつも…」
中庭に残された
槇寿郎は苛立ちを憶えながらも
その中庭を埋め尽くす洗濯物に目を向ける
多量の洗濯物が 風にハタハタとたなびいて
急ぎの物でも何でもない様な
今日 今のこの時にわざわざ
洗わなくていい綺麗なものまで
綺麗に洗濯をされて物干しに
これ見よがしに干されており
「……杏寿郎の寄こした、
使用人には…ろくな使用人がおらん…。
どうせ、望月の差し金だろうが
…余計な真似を…ッ。
雇い主は、杏寿郎だろうが。
この屋敷の主は俺だ…ッ」
成程… これはまんまと1杯…
俺は望月に食わされてしまったようだが…
「こちらにおられましたか、
お帰りなさいませ、旦那様。
昼食の用意が整っておりますが…」
「望月…」
「はい、如何なさいましたか?旦那様」
そう自分は この屋敷の仕事を
いつも通りに
こなしいているだけだと言う
涼し気な顔をしている望月の顔を
槇寿郎が睨む様にして見るが
望月は眉のひとつも
ピクリともさせない辺りは
どうにも一介の使用人であるが
この望月と言う男は
中々に肝が据わっている