第78章 待宵月が見下ろすは…罪
「ああ、そうだ…な。
千寿郎…、お前の言う通りだ。
アイツの所為じゃない…。
そんな事は…俺にも分かっている…」
「ち、父上…」
その父の言葉に 先程の言葉には
もっと言葉以上の意味があると言う事は
千寿郎にも感じ取れたが
自分の父の思う所の全てを
読み取り切る事が出来ずに
じっと 自分の父の顔を
千寿郎が真っすぐに見つめる
最初に姉上が屋敷に来た時に
父上がが姉上の事を
嫌味を込めて 女狐と呼んでいた事は
千寿郎もその場に
居合わせて居たので知っている
だが あの前に屋敷に来た時の
姉上に対して父上が向けた
女狐と言う呼び方と
今の父上が姉上に向けた
女狐と言う呼び方には
また違った響きと言うか
印象の様な物を感じることが出来て
言うなれば…素直では無いし
父上らしいと言えばらしくあられる
少しばかり悪い言い方をすれば
素直ではない感じ…で
二人の事が気になってしまてt
心配だとは言えないらしい
「母上に怒られてしまいます」
「…怒られるか」
「母上に笑われます…」
「………笑われる…か…」
槇寿郎がそう漏らす様に言って
何故か…ふっと…口の端を少し曲げた
「父上?」
「笑われるなら…それも、悪くない…」
「え?父上…今…何と…」
千寿郎がそのあまりにも
らしからぬ槇寿郎の様子を妙に感じて
槇寿郎の方を見ていると
槇寿郎が千寿郎の顔を
無言のまま見つめ返して来て
そのままお互いに
見つめ合う事になってしまう
無言のまましばらくが過ぎ
槇寿郎が自分の顎に手を伸ばすと
無精髭をザリザリと撫でる
「それに、その髭もちゃんとしなければ、
姉上にも、怒られてしまいます」
その千寿郎の言葉に
あげはが屋敷に来た時に
力技で身なりを整えさせられた時の事が
槇寿郎の頭の中に浮かんで来て
「……そうか、そうだな。
帰ったら、父は髭を剃ろう。
そんな事も出来ないのかと、
あげはも五月蠅いだろうし。
それに、瑠火にも飽きられそうだからな」