第78章 待宵月が見下ろすは…罪
不安を拭っても拭っても
拭いきれないでいた
俺が感じている絶望感にも似た
ある種の恐怖の様な
底の知れぬ不安の理由は
俺が… 奴を
三上透真と言う男を
知って居るから感じる不安だ
あの男の強さを知っているからの恐れだ
あの男は強い
俺が知る剣士の中で一番強い男だ
杏寿郎も…この短い期間に恐ろしい程に
力を付けた 強くなった
…だが
それでも…彼に及ぶのかと考えると
及ばないのではないかと
そんな不安が自分の胸を支配する
落ち着かないのだ そう落ち着かないのだ
昨日は良かった…
杏寿郎とあげはが結納を済ませて
昨日は飲んでもいいと望月が
酒を飲む事を めでたい日だからと
許してくれて 酒をつけてくれたからだ
だがどうだ…?
酒を久々に飲んで一晩寝ただけで
満月の夜が明後日だったのかと言う
その現実に打ちひしがれてしまっている
俺は…弱いな…
逃げて…逃げて…
何とも 向き合えていないまま…か
杏寿郎とあげはが遠くに行ってしまう様な
そんな気がして仕方がなかった
自分が歳を取ったからなのか
物事をどうにも
俺の頭は悪い方にしか考えてはくれない
瑠火の墓前に
そんな弱音でも吐きに行こうかと
そんな事を考えて
千寿郎を連れて自分の屋敷を出た
俺が抱えている不安をその大きさは知れど
この我が子も抱えているのは同じなのだからな
「全く…、アイツはとんだ女狐だな…。
透真の奴と、杏寿郎だけでは飽き足らずに。
俺や、お前まで…。こうもアイツと言う奴は、
腑抜けにさせてしまえるらしい」
「なっ、父上っ!その様な呼び方を、
姉上になさっては、失礼になりますからっ。
それに…っ、それは
姉上の所為では…ありませんし」