第9章 療養編 煉獄家にて
「確かに、帰っては来ませんけど。この世界で
一緒に生きたのは、事実ですよ?その事実まで
消えて無くなったりしませんから」
「過去にばかり、囚われて居ても辛いだけだ…」
「でも、きっと、その思い出が…支えに
なってくれる日が…来ると思いますよ?
……いつか」
「お前の話は、理解できん…」
つまらない事を言うなと言いたげに
槇寿郎が目を伏せて視線を逸らせた
「父上が、何故、あげはの話が理解に
苦しむのか、俺にはわかりかねますが。
俺は…あげはの言う事は理解できる!
俺も、君と同じだからな!」
今日まで 俺をずっと支えてくれたのは
紛れもなく あの日 母上が残してくれた
言葉だったから
少し寂しそうにしていた千寿郎の手を
あげはがその隣にしゃがみ込んで
視線を合わせると ギュッと握った
「姉上…?」
「2人から、…いっぱいお話し、
聞くと…いいよ。きっと、お父様も少しは
お話ししてくれると思うしね」
「は、はい!…そうします…」
千寿郎の空いている方の手を杏寿郎が握った
「それに、お前には、兄も居るからな!」
少し離れてそれを見ていた槇寿郎を
あげはが呼び寄せる
「槇寿郎様ー!こっちー、こっちに
来てくださいませんかー?」
「騒がしいやつだな、今度はなんだ?」
交代 とあげはが言うと
千寿郎と杏寿郎の間に槇寿郎を押し込んで
手をつなぐ様に促した
「ばか、何しやがる!…やめろ…、お前っ」
「ちょっと位、飲めるようにして
差し上げてもいいんですよー?」
ニコニコと笑顔のあげはと
決まりの悪そうな顔の槇寿郎
やり口が…やはり胡蝶と同じだと
杏寿郎が感じていたのは事実で
3人に手を繋がせて
当のあげははご満悦の様だった
墓参りを終えた帰り道
3人で手を繋ぐそれを
ニコニコ顔で見守るあげはに
杏寿郎が空いている手を差し出して言った
「君も、どうだ?ここが…、空いているぞ?」
「きょ、杏寿郎さん…?」
「あ、ズルイです兄上っ!私も、姉上と…
手をお繋ぎしたく…ありますのに…」
そう言ってしょんぼりする
千寿郎の姿を見ると
なんとも言えない 気持ちになってしまって
庇護欲を掻き立てられてしまって…
仕方ないんだけど?