第78章 待宵月が見下ろすは…罪
「そう言えば…、
育手を退くと言っていた中に
新しい弟子を取った育手の男が居たか。
鱗滝…左近次が送り出した弟子の中で
冨岡義勇以来に、
選別から戻った弟子が居たと聞いたな。
あれだけもう弟子は取らないと言っていた男を、
何が変えさせたのか…。冨岡義勇か…?」
『竈門炭治郎…、ソノ隊士ハ、竈門炭治郎…』
「竈門炭治郎…、ん?その名…どこかで…。
そうだ、あげはの手紙に…
その名が、あったか、…竈門炭治郎。
竈門炭治郎と言う名の隊士も、
煉獄杏寿郎の継子として共に戦うのだと…」
人の名前を記憶するのも
職業柄得意な方だ…
一瞬で 全身を寒気にも似た感覚が走った
柱でも無い一介の隊士である 竈門炭治郎を
三上透真との 明日に控えた満月の夜の
その戦いに連れて行くなと
あげはに伝えようかと思った
迷ったのだ その一瞬で 心を搔き乱された
そうだ…鱗滝左近次が言っていた
たった2人だけの選別から戻った 鱗滝の弟子…
その隊士の名が…
確か 竈門炭治郎だったはず…だ…
「鳴門!庵に急ぐぞっ、お前は後から来い」
スゥっと呼吸を一瞬にして整えて
山を2つ越えて 自分の庵へと急いだ
当然 私が全集中の呼吸を使えば
鳴門は私を追えない
自分の庵に入ると
慌てて明かりをつけて
ガサガサと箪笥の奥にしまっていた
手紙の束を取り出して
床の上に散らかしながら
前に交わした鱗滝からの手紙を探し出す
「どうか。願うなら、
私の記憶違い…であってくれ…ッ」
冨岡義勇は仕方がない…としてもだ
竈門炭治郎は…直接的な
透真との関り合いがない隊士なのだから
巻き込まなくていいのではないかと
どくんどくんと
自分の心音が騒がしくなるのを感じる
カサッ… 手紙の束の中から
お目当ての手紙を見つけて
その手紙を自分の手に取った