第76章 深紅のバラと浅葱の蝶 ※R-18
「杏寿郎…、これがあの時
に貴方が私の髪に挿して下さった。
あの6輪のバラの姿であるなら。
こうして、これを挿している私は。
杏寿郎、貴方の…あげはにありましょうから」
そういつかの蝶屋敷で 杏寿郎と交わした
その会話になぞられて
あげはがそう言い出して来て
自分の髪に挿した簪は
そのままにして欲しいと
あげはが杏寿郎に自分の希望を伝えて来る
すすっとあげはが杏寿郎の肩に
自分の指を添える様にして置いて来ると
その指先をするすると
あげはが首の方から肩へと滑らせて行く
肩に置いた手を支えにして
杏寿郎の膝の上に跨る様にして座って
自分の身体をそこに納める様に腰を降ろした
彼女の匂いと体温と…
その身体の柔らかさと重みを感じる
その1つ1つをもっと…
自分の五感で味わいたいと
感じたいと…
そんな感情が自分の中に湧いて来るのを
杏寿郎は感じていた
「あげは、これは…君からの俺の贈った
簪へのお礼と受け取っていいんだろうか?」
「あら?杏寿郎…、元よりそのおつもりで
こちらにいらしたのではありませんでしたか?
私にお礼を弾んで欲しいと先程、
杏寿郎が仰った事でありますよ?
なら…、このまま、私からの、これの
貴方へのお礼を…弾ませて頂きましても…?」
あげはがそう言いながら
自分の手を頭の簪の方に伸ばして
そのバラに留まっている蝶を
ツンツンとつつくと
前に…彼女が あの狂い咲きの桜の元で
大量の蝶を寄せて見せてくれた時を思い出す
その髪を彩る
簪に留まる蝶ですらも
彼女の魅力に…
引き寄せられた一匹の様にも見える
ちぅ…と杏寿郎の顎に
あげはが口付ながら
これからするのは
この簪のお礼だと言って来て
あげはにどんなお礼をして貰えるのかと
期待してしまっている自分が居る