第76章 深紅のバラと浅葱の蝶 ※R-18
それは…今そうして
お礼をさせて欲しいと言う
あげはの表情が
あまりにも妖艶に見えるからだろうが
その指先が弄ぶ様にして合わせの間から
顔を覗かせている杏寿郎の鎖骨を
指先でスリスリと円を描きながら擦って来て
鎖骨を擦っていた指が
杏寿郎の首元に伸びて来ると
喉に伸ばして添えた 3本の指で
喉仏の形を確かめる様にして手を這わせて来る
その 僅かに触れて来る彼女の指先が
少しばかりひんやりとして感じる
彼女の指の感覚を…
自分の肌が冷たいと感じるのは
俺の身体が…この先の行為…に期待をして
熱を帯びて来ている…から…だ…ろうな
すっと自分の喉元を撫でている
あげはの手首を杏寿郎が掴むと
その彼女の手を自分の顔の方へ導いて行くと
あげはの手に自分の手を添えて支えると
その指先に自分の唇を撫でさせて
あげはの指の一本一本の指先に口付けて行く
ツンとその指が杏寿郎の唇に押し当てられて
あげはがその手を操られるままにするのを
止めたことに杏寿郎が気が付いた
クイッと圧を掛けて押し付けられると
自分の視線を彼女の顔に移した
「…どうかしたか?あげは」
穏やかでありながら 少しばかり
呆れた様な顔にも見えるような
そんな微笑を彼女が浮かべていて
「ふふ…、なりませんよ?杏寿郎…。
貴方がそうしてしまっては、
お礼になりません故。
杏寿郎は、大人しく…私に、
されるままになさって?」
その視線と表情と声色と…言葉に
いつも知っている 俺の可愛いあげはと
今 俺を窘めて居るのは…
同じあげはなのかと
そう疑いたくもなってしまう…
「だが…あげは…」
「これは、お礼にありますよ?杏寿郎…。
貴方がしてしまっては、
お礼になりませんよ?杏寿郎」