第76章 深紅のバラと浅葱の蝶　※R-18

「どうせ君の事だ…、
折角作らせてまで用意して置いた簪を…
わざわざ髪に挿して置いて、
早々に外すのかと…。
そう俺を呆れてるんじゃないのか？あげは」


髪に挿した簪を抜くと言う行動の
意味などそんな風に問われなくても
杏寿郎から贈られたこの特別な意味を持つ
簪を普通に渡すのではなくて
その渡し方にまでここまでの
用意をされてしまってしまえば…

それを喜ぶなと言われても
それは無理な相談なのだから

自分の感情が昂って居るのを
自分でも感じていて


「いえ…、杏寿郎…決してそのような事は…」


ありませんと…言葉の続きを
あげはが声にする前に
杏寿郎の指が　
あげはの髪に挿してある
バラと蝶の簪にそっと触れて来て

そのバラの花の
花びらの形を確かめる様にして
杏寿郎の指がなぞって来る

その簪の花びらを彼の指がなぞるのは
自分の髪に挿さっているのだから
自分の目で確かめる事はできないが…

まるで　そのバラの花に
自分の感覚が繋がっているかの様な
そんな気さえしてしまって

ドッ…ドッ…っと自分の心臓が
私の意思とは無関係に騒がしくなるのを感じる

普段は…心拍数を呼吸で制限しているが

それをしてこの鼓動を…
遅くしてしまいたくないと

そんな風に感じている…理由…は…

この熱に　飲まれて流されたいと
彼の熱に　溶かされて
燃やされたいと思っているから…


あげはの髪で咲き誇っている
そのバラの花びらに触れている
杏寿郎の手に
あげはが自らの手を重ねると

いいえとその
杏寿郎の言葉を否定する様にして
あげはが首を左右に振った

「でしたら、杏寿郎。
杏寿郎が贈って下さった…この簪は。
今しばらくの間、私のこの髪に
留めて置いて下さいませんか？杏寿郎」