第9章 療養編　煉獄家にて

あの鬼がつけた傷を見たい
確かめたい気持ちは
嘘でも偽りでもないが…

どうにも良くない方にも
心がざわざわとざわつく

これ以上は　欲張るのは良くないか…
これ以上　欲張れば
それ以上に　欲張ってしまうかもしれんしな

「傷は…、君が嫌なら…今はいいが。
…口付けても…構わないだろうか？」

あんなに見たがっていたのに
なんで急に見ない事にしたのかとか
口付ける…のニュアンスの意味する所が
違うような…気がする…んだけども

「あげは」

名前を杏寿郎に愛おしそうに呼ばれて
目を閉じた
何度か口付けを交わして重ねてる内に

何だか　ソワソワとして落ち着かない
気持ちになってくる
何だろうな　いつもの口付けと違うな

何かに堪えきれなくなった様に
唇を離すと

「……あげは」

名前を呼ばれた
彼の赤い瞳が熱っぽく揺れている

彼の指が彼女の髪を撫でると
耳元へ顔を寄せられて

「あげは…、口を…吸っても？」

口を…吸う…
確かに傷は抜糸してるから…
もう　お断りする理由が…ないので…
でも　これ以上は…流石に
お断りするのも…難しいだろうし…

「こんな時に、考え事は良くないぞ」
「か、考えも…しますよ」

「何も、そこまで求めてる訳じゃない、
事を急く必要もない…俺は、口吸いがしたいと
言ってるだけだが。ダメだろうか？」

「………」

あげはは何も言わないままで
俺の方を見て　いや睨んで…睨まれてるな

「嫌なら、断ってくれても構わないが…
理由を聞かないと納得はできんぞ？」

あまりにも返答がないので
痺れを切らして杏寿郎が尋ねて来た

「その、お断りは…しませんが、
お断りする、理由がないので…ただ」
「ただどうなんだ？理由がないと言う
割りに、嫌そうだが？嫌なのか？」

ダメとも　嫌とも言わないが
乗り気ではなさそうに見えるが…

「そ、その杏寿郎さんが…
嫌とかそんなんではなくて。
私の…方が…その、…ちゃんと…
我慢できるかどうか…とかそっちの方が……」

ん？我慢？何を我慢する…んだ？
そこまで事を急いてないと言った所だが？
いや　別の事の我慢か…

「あ、あの…その間…私の手で
杏寿郎さんの、お耳を塞がして貰っても？」