第74章 ちょっとした逢引
「そうか?
それは光栄な事かも知れないがな?
あの師範殿は、どうにも気難しい所はあるが。
心根は熱く、優しい人の様にあるが?
それに、俺は…師範殿にではなく…、
あげは。君にお気に召して貰いたいがな?」
「その様な事は、言わずもがな…に
ありますよ?杏寿郎」
そう言って
その腕に横抱きにされている身体を
杏寿郎の胸に預けて もたれ掛る
自分の身体に寄りかかる
その身体の温もりと重みを感じながら
杏寿郎は炎屋敷を目指した
それから…
しばらく走った頃に…
「あっ、あの~、杏寿郎…これでは
私の鍛錬になりませんので…そろそろ…」
下ろして欲しいと訴え掛けて来られて
いいや と杏寿郎が首を横に振った
「確かに、
君の鍛錬にはならないかも知れないが、
俺の鍛錬にはなるからな?
一緒に帰ろう、あげは。
俺達の、炎屋敷へ」
帰ると言う言葉が杏寿郎の口から出て、
あげはがその言葉を聞いてハッとする。
今までは…
私の帰るべき場所は…蝶屋敷だったのに
いつしか 私の帰るべき場所は…炎屋敷に…
ううん そうじゃなくて…
彼の…
杏寿郎の隣になって居た様にそんな風に感じて
杏寿郎に自分を預ける様にして
その身体に自分の身体を預けると
「ええ、帰りましょう…杏寿郎…。
私と貴方の帰るべき場所へ」
「あげは…。ああ、帰ろう…。
よし、飛ばすぞ?
しっかり俺に、捕まっていてくれ!」
スウゥウウウゥ…と杏寿郎が呼吸を深めると
さっきまでの速度よりも
更に速い速度で走り始めた
炎屋敷の玄関まで戻って来て
石畳の上に降ろされる
馬車で2回 町まで行ったが
走ればこんな距離だったのかと
その近さに
あげはは 驚かされてしまっていた
「どうした?
あげは、中に…入らないのか?」