第74章 ちょっとした逢引
「そして、彼は今は、
鬼殺隊の水柱になりましたゆえ。
きっと、透真さんも
それをお喜びになりましょうから」
杏寿郎が視線を遥か前方へと移すと
更に速度を加速させて行く
「なら、あげは。
君も彼の継子であったのなら…。
自分の師である彼の意思を継がねばな。
俺は、彼が君を介錯人に
選んだのかと思って居たが。
そうではどうにも、なさそうだ。
君が冨岡に重い試練を与えた様にして、
彼もまた、あげは、君に試練を与えたか…」
恋人として…婚約者としてではなく
鬼殺隊としての 彼女の成長を
彼女の師として彼は願った…
「師範は…やはり、
何もかも…ご存じにありましたか…。
師範があの時に、
私に伝えて下さった言葉の数々も…。
今になり、その意味と重みを…
杏寿郎の言葉に気付かされた様にあります」
「師範と言うと、あの普段は
山に籠っているあの師範殿の事か?」
「私が、師範の元で
修行をしておりました時から
師範には念仏の様に、
お前は鬼狩りには向いてないと
言われておりましたので。
鬼狩りの才能はあっても
私の甘ちゃんの、
この性分がそれを邪魔していると」
ふっと杏寿郎が口の端を曲げて 笑うと
三上透真が彼女のそれに気が付いて
彼女に試練を与えた様にして
また 彼女の師である
あの師範殿も別の角度から彼女に試練を与えたか
「あの師範殿なら、
言いそうな事ではあるがな」
「迷っても揺らいでも
構わないのだと、それを持って
抱えたままに、その先に行けと。
私、ひとりではなくに、
杏寿郎…とそれを共にしろと…。
師範が仰っていた事と、
同じ事を…杏寿郎に
言われてしまっておりますね…、私は…」
「あの師範殿は自分の弟子が、
可愛くて仕方ない様だったからな」
「昨日も…師範に言われた所にありました…。
もっと杏寿郎に甘える様に…と。
私は意地を張り過ぎて、
どうにも素直になれないので…。
師範にも釘を刺されておりましたのに…。
杏寿郎は、私のそれを
受け止められない男ではないと…も。
杏寿郎は、師範から
お気に召して、頂けたようにありますね」