第74章 ちょっとした逢引

「ああ、それは知ってる。
あげは、君は俺に甘えて居ればいい。
自分の弱さや不安を俺に、曝け出せばい。
俺が彼の分も、君を支える。
無理に、一人で立たなくてもいい。
あげは、君には俺がいる。
何があったとしても、俺は君を離さないからな！
君は俺をもっと、頼りにしてくれればいい」

「杏寿郎…、
私は…、ちゃんと…やれますでしょうか？
私が果たすべき役目を、
彼の希望を…私は…っ、叶え…ねば、
ならぬのに…、そうありながら…に…。
こんなにも、それが自分に
務まるのかと揺らいでおります…。
でも。彼を…討つと言う事は。
鬼である三上透真の頸を取る事は…。
確かに、彼を結果的に失う事に…なりますが…。
悲鳴嶼さんが、透真さんより…
依頼されて断った事を、
私が、悲鳴嶼さんの代りになさねばなりません」

ぎゅっと杏寿郎の腕に抱き締められる

「その、悲鳴嶼さんの
後悔も晴らさねばなるまい？」

悲鳴嶼と交わした約束を思い出す

そう　悲鳴嶼さんの想いは
私と杏寿郎が預かったのだから

「そうに…ありました、
救いたいと思って居るのは
悲鳴嶼さんも同じ事。私と杏寿郎は…、
あの時の悲鳴嶼さんの後悔を
晴らさねばなりませんものね。
約束を果たさねば…、こんな風に、
立ち止まっている場合にはありませんね」

自分の中の不安がスッと
嘘の様に引いて行くのを感じる

そうだ…それが　彼の希望なのだから

透真さんが　刀鍛冶の里に
自分の日輪刀を置いて行ったのも

自分の首を獲って欲しいと言う…
透真さんの心の現れ…でしかなくて

「冨岡は…大丈夫そうなのか？
割と…彼は繊細な部分があるからな」

「ええ、私は彼に酷い事をしましたからね。
でも、きっと…義勇ならそれを越えて
その先に辿り着いてくれると、
私は義勇を信じておりますので」

「はははは、まるで、あげは。
君は冨岡の師の様な事を言うんだな」

「私が、彼の。義勇の師範であったのは…
ほんのひと時の事にありましたが。
彼が、義勇に伝え遺した事は…
その間に伝えたつもりにあります」