第74章 ちょっとした逢引
「あの、杏寿郎…。
まだこの時間でありますが。
…これから真っすぐお屋敷に?」
洋館を後にしてまだ早い時間の通りを
一緒に肩を並べて歩く
この後はどうするのかと
杏寿郎にあげはが尋ねて来て
「そうだなぁ…、まだ時間もあるし…。
昨日の逢引の続きと言うのも、…悪く無い…。
折角、町まで来てる事だしな。
今から芝居でも観てから、
昼に蕎麦でも食べて帰るか?」
お昼に蕎麦にしようと言われて
ドキッとしてしまった
前に蕎麦屋の二階で交わした情交の記憶を
自分の脳が勝手に引っ張り出して来て
その時の事を思い出してしまっていた
その邪念を払う様にして
あげはが自分の頭の上の辺りを
パッパッ…と手で払って居て
羽虫でも飛んでいたのかと 杏寿郎は
そのあげはの行動を
不思議に思いながら見ていて
「あの…、杏寿郎。
お昼の事なのでありますが。
そ、…それは…その、お二階がある…
お蕎麦屋さんで…にありますか?」
「二階?ああ、二階で寛げる蕎麦屋の事か?
いや、俺が考えているのは、
二階のある蕎麦屋じゃなくてな。
ちょっと粋な、趣のある感じの
離れのある蕎麦屋もあるぞ?
まぁそれも、
春日から聞いた蕎麦屋なんだがな。
離れの方が、
蕎麦屋の二階よりも下の客を気にせずに、
ゆっくりと寛げそうだろう?
まぁ、あの千城の離れの様な
豪華な離れではないだろうがな」
あの春日さんが
ゆっくりと蕎麦屋の二階よりも寛げると
杏寿郎に言ったのであれば
そう言った意味の…
個室…の蕎麦屋…って事…で
間違いはない…んだろうなって
あげはは勝手に思い込んでしまっていて
「なら、行くか?あげは。
異論はあるなら受け付けるが?どうだ?」
「いっ、いえ。異論は御座いません。
このまま…真っすぐ戻ってしまうのが…
惜しいと思ていたので」
「そうか。なら、決まりだな。行こう」