第72章 その恋は……
「あげは。
俺は…、君の口から…その言葉が出るのを…
ずっと今か今かと待ちわびて居たがな?
あげは…、君が、悩むのも、迷うのも当然だ。
これでいいとこれが正しいんだと、
思いこむより…、他には。
こればかりには、どうにも出来ん…が。
迷うなと恐れるなと、俺は君には言わない…」
「なっ…、杏寿郎…が、それを…、
私にお許しに…なられるのでありますか?」
「何より、あげは…。
君が心の奥底に抱えているその悩みは…
きっと、誰しもが抱えている。彼が…
三上透真と言う、水柱である彼が。
それだけ皆に、慕われて愛されていた証拠だからな。
彼は、幸せ者だ。彼の苦悩も苦しみの葛藤も
俺にもその全てを計り知り得は出来ないが…。
彼は苦しんでいるが、それだけでもあるまい?」
お館様…にしても
悲鳴嶼さんにしても…
それに 胡蝶や宇髄 冨岡にしても…
彼に対して思い抱いている想いは同じだ…
俺の目の前にいるあげはも…
彼に対する罪悪感を感じて居る
救いたいと口にする事さえも…恐れるまでに
もし自分が もっと早く気付いて居れば
彼を 三上透真を救えたんじゃないかと
もっと別の未来を選べたんじゃないかと…
そんな自問自答を何年も繰り返してるんだ
「あげは…、俺は彼の事は
柱の中の柱だと思って居る」
グッと強い力で肩を抱かれて
苦しい程にその身体に押し付けられる
俺の胸に顔を押し付ける彼女が
小さく頷いたのを感じて
その身体に腕を回して抱きしめる
「…ッ、…杏寿郎…?何…を…。
……私も…杏寿郎…と同じに思っております。
透真さん…は、立派な水柱にあられました…」
「なら、柱の鏡だな?」
「?柱の…鏡…にありますか?」
杏寿郎の指があげはの瞼をなぞって
瞼に触れられてある事に気が付いた
「君のここには…
残ってるんじゃないのか?あげは。
君は一番、彼の近くで、
水柱である彼を三上透真を見て来ただろう?」