第70章 町行かば 再び
「君…のこの、元々の
唇の色も…俺は好き…だがな?」
「んっ、でも…、杏寿郎、今…は。
口紅が落ちてしまっております…のに?」
「君の口紅を落としてしまったのは俺だろう?
この今の、君の唇の色を見てもいいのは、
俺だけに許された…、特権にもあるようにあるが?」
そう言いながらも 再び口付けをされてしまって
「んっ、…は、杏寿郎…、
もっと…こうして居たくあります」
「俺も、そんな気分だがな…。
そろそろ、そうも言って居られそうにないな」
杏寿郎が名残を惜しむようにしながら
そうあげはに言って来て
閉め切っていたカーテンを開くと
前に見た事のある見慣れた街並みが見えて来る
「もうこの辺りまで、来てたんだな」
目的地である呉服屋までは
ここからならそう遠い距離ではない。
通りに面した 大きな呉服屋の前に
馬車が止まって 馬車から降りた
代々煉獄家が婚礼の衣装の白無垢を
全てこちらの呉服屋が手掛けているからと
杏寿郎に連れられて 白無垢と
色打掛の仕立てを依頼している呉服屋だ
前に来た時と同じ様に
この呉服屋の主人が杏寿郎の姿を見つけて
こちらに深々と何度も頭を下げながら
近付いて来て 杏寿郎の前に立つと
「すまないな、主人。
急に無理を言って申し訳ないな。
彼女と祝言を挙げる前に、どうしても
振袖を彼女に俺から贈りたくてな」
そのまま奥へどうぞと
前に白無垢を選んだ店の奥の畳の部屋に
呉服屋の主人に案内をされて
仕立て上がりだとばかり思って居たのに
運ばれて来たのは反物ばかりで
「仕立て上がりを…と思っても居たんだがな、
折角だから、仕立てから頼もうと思ったんだ」
「しかし、今から仕立てを依頼して
…その、間に合うのでありますか?」
「大丈夫だ、そっちは心配ない。
帝国ホテルの方や方々に半月、
遅らせると伝えてあるからな。
むしろ、白無垢や色打掛に仕立てや
ドレスの仕立ての方は。
納期が延びると喜んでたぞ?」