第70章 町行かば 再び
「だったら、
遠慮なく…に、そうさせて貰うとしよう」
「ええ、いいですよ。
杏寿郎…もっと、そうして…下さい」
ピタッと 杏寿郎が
あげはのその言葉に動きを止めると
「はははは、君も随分と
俺が分かって来たみたいだな。あげは」
「そんな事は当然にあります。私は
近い将来には、貴方の妻になるんですからね?」
「……あげは、こんな所で
君の言葉を強請っても
許してくれるだろうか?俺を」
「んっ…杏寿…郎…?しかし…、
その様に口を塞いで頂いては…っ、
んぅ、はぁ、言いたい事のひとつも…、
ふ、はぁ…、私もッ、言えません…が?」
はぁっと熱い吐息を漏らしながら
杏寿郎があげはの唇から
名残惜しそうにしながら唇を離して来て
「…あげは、好きだ…、俺は君の事が好きだ。
好きだと言う言葉で言い表せない程に…な」
「ふふっ…、
私も…杏寿郎が、好きにありますよ。
貴方の好きに溺れて、
押しつぶされてしまいそうに
なってしまう程には、
感じて居るつもりにありますが…。
杏寿郎…、貴方が、
言葉になさって下さる分も。
お言葉に言い表せないと、仰られる分にも…。
私は、貴方のそのお気持ちを
常に感じて頂いております」
「ふむ…、これは…、どうにも参ってしまったな」
杏寿郎があげはの言葉を聞いて
どうにも気恥ずかしそうにして
ポリポリと自分の頬を掻くと
「どうか、なさいましたでしょうか?」
「無自覚なのか?あげは、君は。
俺をそんな風に喜ばせるだけ、喜ばせて置いて。
俺をどうしようもなく、させるんだからな。
どう責任を取ってくれるつもりなんだ?」
引き寄せて抱き寄せられた身体が
密着してしまわない様にグイっと
あげはが自分の手の平を
杏寿郎の胸の下辺りに当てて来て
グイグイと押し返して来るが
はっとある事に気がついたらしく
その押していた手の力が緩んで
「もう、ここの骨折も治ってる様な物だからな。
君が、押した位ではどうにもならないぞ?」