第70章 町行かば 再び
角を曲がって 屋敷が見えなくなると
隣にいる杏寿郎に腰を抱かれてしまって
グイと身体を引き寄せられてしまう
「あげは。今日は小紋にしたんだな。
俺の贈った物では無いが
それが甘露寺から貰った
あの、大量の着物の中の一枚か?」
そう言えば支度が済んだ後は
杏寿郎は私の髪型や化粧や着物については
感想らしい感想をあの場では言ってくれなくて
「あの、杏寿郎」
「ん?何だ?あげは」
「もしかして…と
思いまいしてお尋ねをするのですが。
先程は師範がおられたから、
杏寿郎はご遠慮をなさって
下さっていたのでありますか?」
グイっと肩に腕を回されて身体を更に
杏寿郎の方へと引き寄せられてしまって
「どうにも、あの君の師範殿は。
あげは…君を揶揄って遊ぶのが、
趣味の様だったからな。
俺が、あの場で君を
あまりにも褒めちぎりでもすれば。
俺が、席を外して離れた後に、それで君を
弄る為のネタにされかねんからな?」
むぅっとあげはが口を尖らせていて
俺が褒めちぎりをしなくても
俺の事絡みで弄られた後だったか
「あげは、君は何を着ても可愛らしいな。
只、可愛らしいだけじゃない。着物も
洋装も、似合ってるし、君もその
着物の下の肢体も隠しきれない程だしな?」
抑えているとは言えども 胸の膨らみが
豊であることは着物の上からも
伺い知る事が出来てしまうから
「それは…、杏寿郎だけがお知りになって
下さっていれば、良い事に御座いますので」
「その着物の下を暴いてもいい…と?」
杏寿郎の言葉にムッと
あげはが不満そうにして
眉を顰めると自分の着物の襟の合わせの下に
挿しこもうとしていた杏寿郎の手を
ぺしんとはたいた
「しかし、それは、今には御座いませんので。
それに、先ほどのお言葉お返し致しますよ?
杏寿郎は、それこそ私の身体なんて
裸なんて隅々までお知りにございましょう?
私の着物のこの下を暴いた所で、
珍しい新しい物は出て来たりはしませんよ?」