第69章 嵐、再来
「いえ、お気になさらず。
どうぞ、お乗りください」
そうまだ年若い御者が
あげはに馬車に乗る様に促して来て
馬車に乗り込んだはいい物の
夫婦になるんだったら 杏寿郎の妻として
杏寿郎の身支度を手伝った方が良かったのだろうか?
この屋敷で杏寿郎が自分の身支度を
誰かに手伝いをさせているのを見た事が無い
だから そんな発想にはならなかったのだが
そんな事を馬車の中で考えていたら
杏寿郎が馬車に乗り込んで来て
座っていた位置をあげはがずらして
自分の隣に杏寿郎が座れる場所を作った
フッとそのあげはの様子を見て杏寿郎が
口の端を曲げて笑うと
そのままあげはの隣に腰を降ろす
「あの、杏寿郎。如何なさいましたでしょうか?」
「いや、前にこうして馬車に君と、
ここから町に向かうのに
乗った時とは違うなと思っただけだが?」
「行ってらっしゃいませ。炎柱様、鏡柱様」
玄関に屋敷の使用人が一列に並んでいて
こちらに深く頭を下げて見送りをしてくれているが
杏寿郎の視線の先は 今回は工藤さんではなくて
春日さんの方へ向けられて居るから
今回は春日さんに何かを頼んでいるんだろうけども
それをさっき 杏寿郎は
春日さんに頼んでいたのだろうけども
こちらに手を振ってくれている
使用人に対してこちらからも手を振り
それを通りの角を曲がって見えなくなるまで続ける