第9章 療養編 煉獄家にて
家に帰って 4日目の事
夕食を済ませると 父上から
一緒に飲まないかと誘われた
その様子を千寿郎が心配そうに見ていたので
「頭が痛くなる薬の効果は、
一日しか効いてないよ」
とあげはが言った
「姉上!いつからそちらに?」
知らない間にあげはが自分の後ろにいたので
千寿郎は少し驚いた様子だった
「千寿郎君は、優しいね」
そう言ってよしよしと千寿郎の頭を撫でた
あげは様は 姉上は…
沢山沢山 こちらが恥ずかしくなるほど
私の事を褒めて下さる
兄上もいつも 褒めて下さるけど…
もし 母上がご存命だったのなら…
こんな風に 私を褒めて下さったのだろうか?
「でしたら、おつけしましょうか?
お加減は?」
あげはが槇寿郎に声を掛けると
「ぬるめに頼む」と返ってきた
「では、お持ちいたしますので、
お待ちを……」
中庭を望む縁側に少し離れて座っていると
しばらくしてあげはが
お盆にぬるくつけた徳利二本と
お猪口を二つ乗せて乾き物を添えて
2人の間に置いた
飲んでいる間に冷めて丁度いいくらいに
なる様にともう1本は熱めにつけてあった
看護者をしてるだけあって 心遣いが細やかだ
「さて、私達はあっちで話でもしようか?」
「あ、でしたら…。
お願いしたい事があるのですが…」
と言って千寿郎とあげはは
どこかへ行ってしまった
「…お前は知ってるのか?」
「何をですか?」
「アイツが…、
あげはが鬼殺隊に入る前の話だ…」
「彼女は、話は良くすると思いますが、
あまり自分の事や、昔の事は…
話たがらないので…いづれ…はと、
思っています」
俯いていた槇寿郎が
杏寿郎の方へ目を向けた
お猪口は持っているが
飲んではいない
「お前は…、アイツでいいと思ってるのか?」
「むしろ、彼女しか考えられません」
「手に余る…と思うがな」
杏寿郎と酒を酌み交わす
こんな日が来るなんて…思いもしなかったな
やはり 俺も歳を取るもんだ
「彼女が居なければ、
…今、ここに俺は居ませんでしたし。
こうして…父上と、酌み交わす事も…
なかったようにあります」
そう言って微笑を浮かべる自分の息子は
知らない間に随分と
男の顔をするようになったな
「お前も、…知らない内に
一端の口を…聞くようになったじゃねぇか」
「父上…」