第9章 療養編 煉獄家にて
「お出来になるのですか?今の貴方に?
刀の手入れはなさってるんでしょう?」
あげはの言葉に杏寿郎がハッとする
「あげは!それは流石に
…大怪我ではすまんぞ?」
真剣勝負……すると言う事か?
「そちらがそのおつもりなのでしたら、
私も本気だと示す必要があります。
ただし…こんな、つまらない言い争いの為に、
腕や足の一本無くなる覚悟がおありで?」
「姉上!父上は…元柱です…」
「大丈夫だよ、私も元柱だし。それに…私は
柱の時よりも、今の方が強いから。
私は…本気ですよ?」
腑抜けて 何も出来ずにいた俺と
自分は違うとでも言いたいのか
いや 違うな 俺が本気なら自分も本気だと
自分に何の得にもならんことの為に…
いや 昔からそう言うやつだったなコイツは…
自分の事より 人の事…に構うやつだったな
ギュッとあげはが自分の胸の所で拳を作ると
それに反対の手を重ねて包んだ
「貴方には、あるじゃないですか…!
まだ、守るべき…大切な人が残してくれた
大切な物が二つもあるのに!どおして…
そんな事するんですか!!なんでっ……」
ボロボロとその目から大粒の涙が溢れて
「そんなの…悲しすぎます…」
ああ そうだったな
コイツはあの頃から何も変わってないんだな
どうしようもなく 優しい…女だったな
バカが付くくらいに だから俺は
あの時 コイツを杏寿郎の……嫁に…
してもいいって 思ったんだな そうだった
そんな事も 忘れてたんだな
「やっぱり…、まだ、泣き虫…
のまんまじゃねぇか、チビ助…」
はぁーっとバツの悪そうにため息をついて
あげはがまだ幼かった出会った頃の様に
あげはの頭をがしがしと撫でた
「ち、違いますよ、槇寿郎様。
…私じゃなくって…」
自分の頭を撫でていた槇寿郎の手を
あげはが除けさせると
こっちとこっちと言いながら
槇寿郎の手を杏寿郎と千寿郎の
頭の上に乗せた
槇寿郎がその2人の頭をぎこちなく撫でた
「…随分、…大きくなったもんだ…」
それから 何も言わなくても
父上は居間で食事を3食
皆と摂るようになった
彼女が変わる きっかけを作ってくれた
あげはが居ると 家の中が明るくなるな…
嘘みたいに 穏やかで平穏な日常が
そこにはあったのだ