第69章 嵐、再来
ふぅっと師範がため息をつくと
「なら、槇寿郎の倅。
確か名は杏寿郎とでも言ったか。
杏寿郎。今から私と屋敷を離れて
ひとつ逢引でもするか?
もうすぐあげはが戻るからな。
そこに居るだろう?
ひとつ伝言をして置いてくれ工藤」
「はい、畏まりました。水柱様」
女が工藤に師範の伝言を伝えて
工藤がそう答えると
頭を深くこちらに下げて来る
確かに工藤は父上が炎柱をしていた時から
炎屋敷には仕えていたから
あげはの師範が
水柱をしていた時の事も知って居るから
引退して育手になった彼女をそう呼んでいて
ますますにこの工藤の態度からも
自分の父とこの女性との関係を
あれこれと邪推をしてしまいたくなる
ーー
ーー
ーー
すっかり遅くなってしまった
手紙をしのぶちゃんに
書くだけのつもりだったのに
杏寿郎からのあの手紙を読み返してしまったり
しのぶちゃんにに手紙を書くのが中々進まなくて
時間を結構取られてしまっていた
手紙を書き終えて しのぶへの手紙を環に託すと
あげはが中庭に戻ると
杏寿郎の姿はそこには無くて
「ああ、あげは様。
炎柱様からの言伝を賜っております」
そこには工藤さんが立っていて
私がここに戻るのを待っていた様子だった
工藤さんから 何でも杏寿郎に
急な客人が来たので
その客人と話していると聞いたので
その時は余りなにも考えずに
応接間に居るのだろうと
工藤さんの言葉を信じて気配も探らなかった
「そうなんですね、でしたら私は、
お客様がお帰りになるまでの間。
さっきの分もここで稽古をして待ちますので」
「はい、畏まりました。あげは様」