第68章 酔って酔われて飲まれる夜に… ※R-18
杏寿郎がそう言うと
そのまま 台所の中に
構う様子もなくズンズンと入って来て
あげはの後ろを通り過ぎて行くと
水瓶に溜めてある井戸水を
汲むのに置いてある柄杓で
水瓶の水を無造作に掬うと
直接口を柄杓に付けて
柄杓の中の水をゴクゴクと喉を鳴らしながら
飲んでしまって
「あっ、杏寿郎…ッ」
こっちがそれを止めるよりも
杏寿郎がそれを飲み干す方が早かったので
「ん?何だ、あげは」
「ああ、いえ、もう遅いのでいいです」
「遅い?何の事だ。時間ならまだ早いだろう?」
「いえ、何でもありません…と
言いたい所ではありますが、
お止めするには遅くとも、
お話するには遅すぎませんので」
「…?何の話だ?あげは。遅いのか?
それとも遅くないのか?どっちなんだ」
意味が分からないと言いたげにしている
杏寿郎の顔を見て
ふぅ…と あげはがため息を漏らすと
柄杓に直接口を付けてしまっては
もうその柄杓で新しい水は汲めないから
その柄杓をそのままにして置けば
誰かが知らずにそのままその柄杓で
水を汲んでしまうだろうし
そうしてしまえば
残っている水瓶の水が不潔になってしまうと
そんな事を心配してしまうのは
職業病なのかも知れないが
「杏寿郎、その柄杓も洗いますから
その柄杓を、こちらにお渡し頂いても?
直接口を付けてしまった柄杓は、
もう新しい水を汲むのに使えませんので」
「何だあげは、俺が使った柄杓は
使えないと言う意味か?」
「いいえ、決してそう言った
意味ではございませんので。
杏寿郎。先ほどもあれだけ口付けて置いて、
貴方が使った柄杓が使えないとは、
そんな野暮は私も言いませんので」
その解釈は違うと杏寿郎の言葉に対して
あげはがそう返して来て
むっと杏寿郎が僅かに顔を顰める