第68章 酔って酔われて飲まれる夜に… ※R-18
槇寿郎様からは 子を設けるのは
正式に結婚式を済ませてからにする様にと
あの時に言われているから
その時期に身体を合わせるのは
避けた方が良いだろうし
その辺りの話も杏寿郎とはしなくては
「あげは、どうかしたのか?食べないのか?」
「いっ、いえ…、頂きます。
美味しそうですね、杏寿郎」
考え事をしていて膳を見つめながらも
手を付ける様子の無かったあげはに
杏寿郎が声を掛けて来て
「おっ、美味しいですね。杏寿郎」
「ああ、美味いな」
そのまま しばらくして
食事がある程度進んだ頃に
杏寿郎があげはに声を掛けて来て
「屋敷の使用人の作った物も美味いが、
あげは、君が作った料理も
また食べたいと思うしな。
さて、ある程度、食事も進んだし。
良い頃合いだしな。そろそろあれも飲むか?」
先に使用人さんが漬けてくれていた
熱燗を頂いたのだがそれも空になったので
杏寿郎がそろそろ あの例の
タツノオトシゴのお酒を飲まないかと
私にそう持ち掛けて来て
あの時とは違って 今夜はグラスを二つ
机の上に杏寿郎が並べると
その両方のグラスに
トクトクトク…と
タツノオトシゴの酒が満たされて行くのを
あげはは無言のままで眺めていて
そのグラスをひとつ 杏寿郎が手に取ると
もう一つをこちらに差し出して来て
「ほら、君の分だ」
「ありがとうございます、杏寿郎」
その差し出されたグラスを
あげはが受け取った
じっと 自分の手にあるグラスの中を満たす
黄色い色味と漢方薬の独特の臭気を帯びた酒の
液面を静かにあげはが見つめると
ゴクリ…と固唾を飲んだ
これを 飲んだら あの夜の様に……
「どうしたんだ?あげは。
飲まないのか?さぁ、乾杯をしよう」