第67章 春日の決意とカナエの配慮
はぁっと 熱い吐息を漏らし
名残を惜しむようにして
ゆっくりと唇を
杏寿郎の唇から
あげはが離して行くと
自分の指先で杏寿郎の唇をなぞって
彼の唇に移ってしまった
自分の紅を拭い取る
「杏寿郎。私が戻ったら、
また…この続きを致しませんか?」
「続き…か、それは…口付けだけか?
その先も、俺は
期待していてもいいのか?あげは」
「先程…だけでは、物足りないと
欲張りたいと杏寿郎はあの時に、
仰っておられた様に記憶しておりますよ?」
そう言うとあげはが口元に手を添えて
ふふふふ…と笑う
「なら、俺は屋敷で大人しく
稽古でもして君の帰りを待つとしよう。
春日も君を待ってるだろうし、
行って来るといい。
もうすぐ迎えの馬車も来るだろうからな」
「ええ、でしたら。
そうさせて頂きます、杏寿郎。
ですが、その前に…、もう少しだけ」
あげはがその後に塗り直した
紅が落ちてしまわない様に
そっと しばしの別れを惜しむようにして
触れるだけの口付けを杏寿郎にすると
杏寿郎に挨拶をして
たとう紙で包んだカナエの振袖を
風呂敷に包んで あげはが持つと
春日が待っている玄関の方へと向かった
そこには春日の姿が既にあり
あげはが来るのを待っていた様だ
「あ、あげは様!もう、その、
ご準備はよろしかったですか?」
準備と言うよりは
杏寿郎の方は良かったのかって意味だろう
「すいません、春日さん。
大丈夫ですので、すいません。
その…、お待たせをしてしまいまして」
「いえ、もう、炎柱様があげは様を
中々離せないのは、皆も周知しておりますから。
ああ、馬車も到着しておりますから、
あまり、いつまでも屋敷の前を
馬車が塞いでしまいますのも、近隣の皆様に
ご迷惑になりましょうし。中で話しましょうか」
「ええ、そうですね。
すいません、そう致しましょう」