第9章 療養編 煉獄家にて
「お前はうちに何をしに来た!出て行け!!」
槇寿郎の言葉に
あげはが目をキョトンと丸くさせた
「出て行くのはいいですけど?
そのままですけど?」
居なくなっていいのかとあげはが尋ねた
そのままとはこの酷い頭痛は
自分にしか治せないと
あげはは言っているのだ
「忠告していなかった、私も悪いですし?
今回は特別に容認しますね。そのかわり…
血を取らせて頂いても?」
ドスンっとあげはの向かいに腰を下ろすと
右腕を差し出して
「勝手にしろ」と槇寿郎が言った
あげはが手際良く採血を済ませると
検体を鴉にしのぶの元へ運ぶよう頼んだ
「では、これは頭痛を鎮めるお薬です」
「……」
槇寿郎は無言でそれを奪うように取ると
さっさと自室へ戻ろうとする
「でも、それを飲んでもまたお酒を飲まれたら
頭が痛くなっちゃいますよ?飲みたい気持ちで
イライラなされる様でしたら、
仰って下さいね?イライラを
鎮めるお薬も、持っていますので」
千寿郎の淹れたお茶を飲みながら
杏寿郎はあげはの
やり口が胡蝶にそっくりだと
密かに思っていた
それからしばらくは他愛もない話をして
3人で夕食を済ませ
あげはは千寿郎と
共に片付けに席を立った
片付けを済ませて
お茶を持って戻ってくる
「杏寿郎さん、お紅茶はいかがですか?
これを、皆で食べようと思いまして」
そう言ってあげはが持っていたお盆を
机に置くと切り分けられた
さつまいものタルト
が乗った皿が見えた
「いつぞやの、芋のタルトだな!」
「はい、まださつまいもが、残ってたので」
「あげはの作る、芋のタルトは美味いぞ!」
と杏寿郎が千寿郎に食べてみるように促した
パクッと一口 フォークで口に運ぶと
「あ、…美味しいです」
と千寿郎が顔を綻ばせた
「本当に?良かったぁ。
そう言ってもらえて良かったよ
沢山あるから、いっぱい食べてね」
とニコニコと笑顔を浮かべながら
千寿郎がタルトを食べるのを見守っていた
先程の並の剣士も
タジタジの気迫を放ったのが
この人だとは
こうして見ていると信じられない
穏やかで柔らかい雰囲気を醸し出している