第9章 療養編 煉獄家にて
「ほんのお返しです、
お久しぶりにございます。槇寿郎様
ずっと、お目通り叶いたいと
…思っておりました」
そう言ってさっきの殺気なんて
微塵にも感じさせないような穏やかな
空気を纏って 女は笑った
「お前…、只者じゃないな?
俺はお前の様な女は知らんっ」
「私の事を、お忘れになられたのですか?
あげはです!」
「お前っ!…あの、あげは、…なのか?
信じられん」
彼女に最後に会ったのは5年以上前だ
槇寿郎の記憶の中のまだ
あどけなさの残るあげはの姿と
今の目の前にいる成長したあげはの姿が
上手く重ねられないでいた
いや 美しい女に成長しているが 面影はある
「それはいいが、どうして家に来た?
…俺に説教でも垂れに来たか?」
「ああ、それは…半分は正解です。私が
お送りした、お手紙は
ちゃんと届いておりましたか?」
あげはに手紙と言われて
槇寿郎には思い当たる節があった
柱を一方的に理由らしい理由も言わずに
辞めてしまった俺に
同じ柱として戻るように書かれた物だろうと
ろくに読みもしないで 文箱に突っ込んだ
あげはからの6通の手紙の事だ
「俺に、柱に戻れとでも…言いに来たのか?」
「言いませんよ、そんな事。
いいんじゃないです?今は柱は9柱
揃ってますし。柱に戻るつもりがないのは、
私だって、同じですから」
と言ってあげはが笑った
あげはが…柱を 辞めた?
辞めただけでなく
戻るつもりもない…だと…?
「ああ、やっぱり…読まれてなかったんですね。
柱は、辞めました。4年前に、彼が…死んで。
いや、違いますね。彼が鬼になったので…」
あげはの言葉に槇寿郎の顔色が変わった
「それは、本当なのか?」
「ええ、本当ですよ。私は彼自身が、
鬼になってからは出会ってはいませんが…
。そうそう、私が聞きたいのは
そうでなくてですね」
スッとあげはがしぃ〜っとする様にして
指を立てて唇に当てると
「あの時の、…約束は…まだ有効でしょうか?」
と槇寿郎に尋ねた