第9章 療養編 煉獄家にて
物陰からその様子を伺っていると
先に馬車から杏寿郎が降りて来て
馬車の中にいる人物に
手を貸している様だった
若い時の俺も…結婚する前の瑠火に
同じ事をしたりしたもんだ…
訪問着姿の女性の顔は馬車の陰で
こちらからは見ないが年は杏寿郎と
同じくらいか少し下だろうか?
「父上はどちらに、おられるか?」
杏寿郎が千寿郎に尋ねると
「いえ、少し前に出られてしまってまして…
まだお戻りにはなっておりません。そろそろ
お戻りになられる頃だとは思いますが…」
「勝手にお邪魔する訳にも行きませんし。
もうしばらく、ここでお待ちしましょうか?」
「すいません、お待たせしてしまいまして…」
随分とおっとりとした
気の抜けた話し方の女だった
「くたばり損ないが…、
どの面下げて良くもまぁ
戻って来れた…もんだな」
「父上!…杏寿郎、ただいま戻りました。
あの…父上…、手紙は…」
「そんな、どこの誰かも知れん女!
俺は…認めんぞ!」
ギロリと槇寿郎が目を見開いて
女に対して威圧するような圧をかける
違和感があった
その女は
俺の放った圧を物ともしなかったからだ
物ともしないだけでなく 臆する様子もない
その女の後ろにいた
千寿郎が突然自分でもどうしてか
分からないが膝が震えてしまって
杏寿郎にしがみついていた
「父上…、その様に威圧されては
千寿郎が怯えております」
あまり強く言えないのか杏寿郎が言った
言葉は内容こそ否定的だが
いつもの力強さはない
「……大丈夫だよ」
ポンっと女が千寿郎の頭を撫でた
膝の震えが止まった何故か分からないけど
「杏寿郎さんっ、
千寿郎君しっかり抱きしめててあげてね
後ろには飛ばさないようにするから…」
とあげはが小さい声で杏寿郎に耳打ちすると
「とても、素敵なご挨拶をいただきまして、
恐悦至極にございますわ」
と両手を合わせてにっこりと笑った
もの凄い殺気と共に
本人が後ろには飛ばさないと言っていたが
俺にも十分感じるくらいだったし
向けられた方の父上は…
思わず 刀がないのにも関わらず
腰に手を当ててしまった
なんだ?今の…殺気… この女 素人じゃない
剣士だ… それも手練れ… かなりの手練れだ…